沸き立つ空気の中、マリアンヌとアレンを複雑な表情で見守る三人がいた。

「あーあ、またとられちゃったな」

レックスがガッカリしたように肩を落とすと、アルターとベリックも苦笑いで頷く。

「でもあんなに幸せそうに笑っている彼女は初めて見たな。きっとあれが本当のマリアンヌなのだろう」
「あのような無邪気な笑顔、僕では引き出せませんよ」

若干のもの寂しさを漂わせた三人は、やがて吹っ切るようにマリアンヌへ盛大な祝福の拍手を送ったのだった。

その後、執事見習いをやめたアレンは自国へと帰って行った――はずだった。

「アレン? どうしてあなたがまたうちの屋敷にいるの? え、お忍び?」
「巷では遠距離恋愛に不安を感じた令嬢が、身近な男に心変わりをする話が流行しているって聞いて……」
「馬鹿ね、私もう周囲の期待に応えるのはやめにしたの。あなたが好きでいてくれるならそれで充分だわ」
「マリアンヌ! 愛している!」

噂に惑わされる公爵令嬢はもういない。