マリアンヌは他の生徒の手前、感情を表に出すことを憚られ、仕方なくアレンを少しだけ睨みつけた。

よくもそんな大事なことを私に黙っていたわね?
お父様もお父様よ!

静かに腹を立てているマリアンヌにお構いなしで、アレンは第二王子のレックスと何やら会話を交わすと、ジャルダンとロザリーは衛兵に引きずり出されてしまった。
ロザリーはアレンが階段で会ったマリアンヌの逢引相手だとは気付かぬようで、アレンを見て「カッコいい……」と目をハートにしている。
あれほど『ダサい』を連呼していた相手だと知ったらどう思うのだろうか。

彼らの裁きは陛下に委ねることになりそうだが、婚約は確実に解消されるだろう。
ジャルダンが王位を継ぐことはなくなったし、ロザリーを学園で見ることももうないかもしれない。

「さあ、これであなたを害する者たちはいなくなった」

二人が講堂から連れられていくのを眺めていたマリアンヌが顔を上げると、気付かないうちにアレンが隣に立っていた。

「アレン! 前髪はどうしたのよ? あなたが王子って本当なの? ……じゃなくて、アレンダイル様は王子でいらっしゃったのですか? 私、知らずに失礼なことを……」
「マリアンヌ、やめてくれ。俺は自分が望んであなたの執事見習いをしていたんだ。渋る公爵を説き伏せてまでもね」
「どうしてそんなことを?」

マリアンヌが問えば、アレンは懐かしむような顔をする。