ロザリーが近付いてくる。
あとは油断している彼女を軽く突き飛ばし、その隙に逃げて生徒会室の近くまで走れば――

「お嬢様」

急に誰かに耳元で話しかけられたマリアンヌは、驚きで体を揺らした。
耳を抑えてバッと振り返れば、なぜかここにはいるはずのない執事見習いのアレンが立っている。

「え? どうしてアレンがこんなところに? 何をしているの? って、今はそれどころじゃな」
「えーーっ、マリアンヌってば、こんなところで男と逢引き? 婚約者がいるのにあなたも隅に置けないわねぇ」

マリアンヌの言葉を遮るようにして、ロザリーの高い声が踊り場に響き渡った。
今の今までロザリーを待っていたというのに、このタイミングでの彼女の出現に頭を抱えたくなってしまう。

「早くジャル様に教えてあげなくっちゃ。マリアンヌが浮気してるって」
「ちょっ、待って!」

浮気をしているのはジャルダンのほうで、その浮気相手がロザリー(自分)だというのにひどい言いぐさである。
しかし、思わぬ展開にマリアンヌは慌てていた。

まずいところを見られてしまったわ。
というか、なんでアレンがこんなところにいるのよ?
計画が台無しじゃないの!

学園内はセキュリティが厳しく、部外者を入れることは禁じられている。
アレンと一緒にいるところを見られてしまったマリアンヌはピンチに陥っていた。