「お帰りなさいませ。本日も悪役令嬢としてのお勤め、お疲れ様でございました」
「ただいま。微妙に引っかかる言い方だけど……まあいいわ」

今日もアレンは待っていましたとばかりに、馬車から降り立ったマリアンヌに駆け寄ってくる。
今回の嫌がらせの成果についてアレンに話して聞かせていると、食堂でレックスが登場したあたりから雲行きが怪しくなってきた。
アレンはどこか不満そうな表情を浮かべていて、相槌もあからさまに適当になってきている。

「何よ、そのへの字口は。計画がうまくいったというのに、何が気に入らないのよ?」
「別に。お嬢様は相変わらずモテモテでいらっしゃるなぁと思っただけです」
「は? どこがよ? 言っちゃなんだけど、婚約者に堂々と浮気されるような女よ?」

自虐的な発言だが、事実だから仕方がない。

「それは婚約者(第一王子)が馬鹿なだけですよ。お嬢様は悪くない」
「ちょっ……それはさすがに不敬よ!」

注意をしても反省する素振りを見せず、ツーンとそっぽを向いているアレンに、マリアンヌは諦めて第三の嫌がらせについて相談をすることにした。
この執事見習いはなかなか頑固で、へそを曲げると面倒臭い男なのである。
しかし、普段飄々としていて本心がわかりづらいアレンだが、マリアンヌのことを大切に思っていることだけは誰の目から見ても明白なのだった。