高度を保ったまま飛んでいくロザリーの教科書は、やがて校舎裏に広がる湿地地帯の手前に吸い込まれるように落ちて行った。
なかなかいい場所である。

さすが強肩の私ね。
あそこならもうすぐフィールドワークの三年生が通るはずだから、落ちている教科書に気付いて持ち帰ってくれるといいんだけど。
まあロザリーなら、教科書がなくなっただけでも私がやったと騒ぎ立てるに決まっているし。

拾われるかどうかは運しだいだが、もしあれだけ遠い場所で発見されたのなら、マリアンヌが犯人だと疑われることはまずないだろう。
教科書は新しいものを貰えるはずだから、私物がなくなったと言ってもロザリーのショックも少ないはずだ。
嫌がらせはさせてもらうが、決して耐えがたいほどの苦痛を与えたいわけではないのだ。

矛盾しているわよね。
でもこればかりは諦めてもらうしかないのだけど。

マリアンヌは再び校内を疾走すると、何事もなかったようにその後の授業を受け、やがて昼食の時間になった。

いつも行動を共にしているクラスメイトの令嬢たちと、マリアンヌが食堂で談笑しながら本日のランチ、煮込みハンバーグを楽しんでいると。

「マリアンヌ様、あんまりですわ! 私の教科書を外に捨てるだなんて……。いくら私が目障りだからって、こんなのひどすぎます!」

突如響き渡ったのは、取り乱したロザリーの声だった。