どうやら真面目なベリックは、マリアンヌが無実の罪で責められていることに黙っていられなかったようで、マリアンヌを守るように前へ出た。

「恐れながら申し上げます。マリアンヌ嬢は音楽室へ忘れ物を取りに行き、出てきたところで僕と偶然出会い、ここまで共に歩いてきました。『少し前』にこの教室内にいることなど不可能です」
「勝手なことを言うな! 私は確かにマリアンヌの声を聞いたんだ。ロザリー、そうだよな?」
「あれは絶対マリアンヌ様の声でしたわ。数人で私のことをあざ笑っていました」

マリアンヌは元は可愛らしい顔を盛大に引き攣らせているが、ベリックは遠慮がちに、しかし冷静に核心をついていく。

「お二人はこの教室でマリアンヌ嬢の姿をご覧になったのですか?」
「それは……。扉を開けたら誰もいなかったが、あれは確かにマリアンヌの声だった!」
「聞き間違えるはずがないじゃない!」
「そう言われましても、彼女が僕と一緒だったのも事実です。何かの間違いでは?」

二人はひどい剣幕だが、マリアンヌとベリックは困ったような表情を浮かべることしかできない。
この特別教室から音楽室は、階は同じでもかなりの距離があり、すぐに移動できるはずがないからだ。
――マリアンヌの人間離れした脚力がない限り。

気付けば、ロザリーがマリアンヌを陥れる為に嘘をでっちあげたと考えた学生らは、一人、二人とその場から立ち去っていた。
予鈴が鳴ったことでうやむやなまま解散すると、実習室へと小走りをするマリアンヌにいつになく厳しい顔のベリックが力強く言った。

「マリアンヌ嬢、気にしないことです。何かあればあなたの無実は僕が証明してみせますから。安心してください」
「ベリック様……心強いお言葉をありがとうございます。頼りにしていますわ」

嬉しそうにマリアンヌが微笑めば、頬をかきながら笑い返すベリック。

こうして最初の嫌がらせは大成功に終わったのだった。