◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「……ん……」

 私はそっと瞼を開けた。カーテンを閉めているせいで時間帯はよく分からない。サイドテーブルに置かれたコップがいつもは使わないコップであることに気がつくと、私は家事代行をしてくれていた上原さんが、新しい人が担当にくると言っていたのを思い出した。

 (挨拶……してないじゃん)

 前にうっすらと意識を覚醒させたときにいた人だったのだろうか、そんなことを思いながら眠くもない私は、再び目を閉じる。


 次に目が覚めたとき、私はベッドの横で寝ている男に気がついた。ずっと眠っていた体は麻痺してしまったみたいに思うように動かない。やっとの思いで寝返りを打つと、ぽかんと間抜けな顔をして驚く男と目が合った。

「……やっと起きたぁ……」

 男は寝ぼけているのかふにゃっと笑って言う。それから男は目をゴシゴシとこすって私をまっすぐ見た。

「はじめまして、家事代行サービスで来ました、東堂夏樹です。よろしくお願いします」
「……こちら、こそ。七野、りるは、です」

 しばらく水分をとってなかったせいで声が上手く出ない。東堂夏樹と名乗ったその男は、何が嬉しいのかにこにこしている。

「りるはちゃんかぁ、可愛い名前だね。ちなみに俺大学1年で年も近いだろうから、お互いタメでいい?」

 夏樹は私の様子がおかしいことに気がついたのか、どうした?と私の声を聞き取ろうと顔を近づけてくる。

「……み、ず」
「!そうじゃんごめん、気づかなくって」
「……ごめ、ん、体、起こすの、手伝っ、て」

 私は申し訳なく感じながらも言う。慣れていない手つきで体を起こされ大きいクッションに体を預けた私は水を飲んで息を吐いた。

「……っはぁ……」

 いつもの気持ち悪さと頭痛がやってくる。いつまで経ってもこの感覚には慣れそうにない。
 時計を見ように見れない私は、仕方なく夏樹に尋ねる。夏樹は具合が悪そうな私を心配するような目で見ていた。

「……今、何日で何時……?」
「今?えっと12日夜の9時だよ」

 まだそんな時間か、と私はため息をつきそうになる。夏樹は私にすごく言いにくそうに聞いた。

「りるはちゃん、何か、病気……?薬もなんかいっぱい飲んでるみたいだし、なんか渡したほうがいいのとか、ある?」



「病気じゃない……それ、睡眠薬だから」



 ただえさえ副作用の強い薬だ。服用間隔は守りましょう、そんなルールをきちんと守っている私を、誰か褒めて欲しい。