「あいつ、優莉の話になると話し長くなるんだよなぁ。」
「そうだったの?」
「優莉さ、優弦が高校生の時に毎日家に居なかったの覚えてるか?」
「うん、覚えてるよ。幹ちゃんと遊んでたんでしょ?いつも早く帰って来ないかなぁ〜って思ってた。」
わたしがそう言い、おにぎりを噛じると、幹ちゃんは「違うよ。」と言った。
「えっ?違うの?」
「あいつ、高校卒業したら、優莉連れて家出るんだって、毎日必死でバイトしてたんだよ。」
「え、バイト?!知らなかった、、、」
「いっつも"今日バイトあるから!"って、全然俺の相手してくれなくて、どんだけ妹命なんだよって思ったことあったなぁ。」
そう言いながら、その時を思い出すように幹ちゃんは静かに笑った。
お兄ちゃんが、わたしを連れて実家を出る為にバイトをしてくれてたなんて、、、
全然知らなかった。
お兄ちゃん、そんなこと一言も言ってなかった。
お兄ちゃん、、、何で一人で頑張ってたの?
わたしにもその苦労を分けて欲しかった、、、
「ところでさ、話し変わるんだけど。」
突然、幹ちゃんがそう言い出した。
「優莉、このマンションどうするんだ?」
「えっ?」
「ここの家賃、払っていけるのか?」
「え、、、それは、、、」
「引っ越すのか?」
「やだ!お兄ちゃんとの思い出がたくさんある家だもん!引っ越したくない!」
「じゃあ、、、一緒に住む?俺と。」
「えっ、、、」
「俺なら、ここの家賃払っていけるし、優弦に優莉のこと頼まれてるから。俺、約束は守る男だからさ。親友の頼みを、きかないわけにはいかない。」
幹ちゃんの言葉に戸惑ったわたしだったが、この家を手放さない方法はそれしか見つからず、わたしは最愛の兄である優弦の親友である幹ちゃんとシェアハウスをすることになってしまったのだった。



