魔法通りの魔法を使わない時計屋さん

「なぜ君は魔法を使わないんだい?」

 またリリカの嫌がる質問だ。ピゲはハムサンドを食べながらまた耳を伏せた。――でも。

「この店を開くときに決めたんです。時計修理に魔法は使わないって」

 そうリリカが溜息交じりに話し始めピゲはちょっと驚いた。話してしまった方が諦めると思ったのだろうか。

「なぜ」
「魔法がなくても時計修理は出来ますから。私の時計職人としてのプライドです」
「プライド、か」
「はい」

 リリカが頷くと男はそこから見える作業台へ視線を移した。

「君のおじいさんも、時計職人だったのかい?」
「え? あぁ」

 リリカの作業台に飾られたじぃじの写真を見つけたようだ。

「そうです。私の師匠なので」

 じぃじの写真を見つめながらリリカが誇らしげに答える。そんなリリカを見て男が優しく微笑むのをピゲは見ていた。

「そう。……ご馳走様。とても美味しい紅茶だったよ」

 カチャとティーカップをカウンターに置いて男は笑った。

「あ、いえ。こちらこそサンドイッチご馳走様でした。ピゲの分まで」
「今日はこの辺でお暇するとしよう」
「え」

 彼はドアの前まで行くと帽子をかぶり笑顔で手を振った。

「また来るよ。じゃあね、リリカちゃん、ピゲ」

 急に名前を呼ばれてピゲの尻尾はちょっと膨らんでしまった。
 そうして彼はカランコロンというベルの音と共に店を去って行った。

「……また、時計置いてった」