「ほらシャキッとせい!」
教卓の前で大きな声を出す担任。その言葉に机に伏せていた者たちもだるそうに顔をあげる。夏休み前のHRそしてこのうなだれるような暑さの中、最後シャキッとしろ!なんて、もはや拷問だと思ってしまう。
「今日は転入生を紹介する」
は?
その瞬間、どっと騒がしくなり始めた。
無理もない。高3の夏休み前の終業式に転入生だなんて聞いたこともないし、それになんで新学期まで待たなかったのかと素朴な疑問が一瞬だけ頭に過った。
だけど、すぐさまあたしには関係のないことだと窓の外に視線をやる。その瞬間ガラガラとドアが開くと共に、より一層教室内がざわつき始めた。
「それでは自己紹介を……て、どこへ行く!こら!」そんな担任の怒鳴り声が一瞬で教室内を静かにさせた。
目の前に転入生「えっ?ちょ、きゃっ!」あたしの腕が大きな手で掴まれると「行くよ」とあたしを引っ張って進んでいく。
「ちょっ!いったっ!何するの……」思い切り振りほどけば、再び腕を掴まれその足は止まることなく歩いていく。
引っ張れるまま下駄箱まで行くとやっとその手は放れた。
「なんなの!」そう後ろを向いたままいきなり足を止めた男に、ただただ怒りをぶつけると「待たせたね、夏輝(ナツキ)」そう振り返りあたしを抱きしめた。
「ちょっ……」その瞬間懐かしい香りがフワッとして、その優しく低い声で一瞬で目の前にいる男が誰なのかを理解するのに時間はかからなかった。
「海斗(カイト)どうして……」
大きな胸に包まれながら、そっと顔を上げるとそこには少し大人になった海斗が目の前にいる。身長なんてあの時より遥かに高くなって。ただ少しだけ痩せてしまったかのようにも思えたが、高くなった身長のせいだと思った。
一瞬、過去に引き戻されたと同時に涙が溢れだした。
「どうして」その声に海斗はただただ、あたしを強く抱きしめる。「なんであの時いなくなったの……。」その言葉にもう海斗は言葉を発することはなかった。



