そのひとは、
「こにちわ、Bonjour」と、
雪の粒をまとってご来店くださった。

(あ、また、なんか探してる)

そのひとは、お菓子のコーナーでキョロキョロしている。今日はお菓子に挑戦するのか。
「May I help you?」
私が声をかけると、そのひとが、いつものようにぱああああっと明るい笑顔になる。可愛い!!

「おいしい?」
「ぜーんぶ、おいしい」
そのひとの無邪気な質問に、私は全部を指さしてうなずく。
「Sweet or salt?」
「both」
「ポテトチップ? チョコレート?」
「both」

そのひとは、お菓子をたくさん入れたカゴを持って、
レジに来た。
そして、
スマートフォンに何かを吹き込んで、私に見せる。

- 明日、
別の国へ行きます。
あなたのおかげでとても楽しかったです。必ずまた来ます。ありがとう。
「え」

明日から、
このひと、もう来なくなっちゃうんだ……

……
……
……

「アデュー」
それだけ言ったら、なぜか、ポロポロ泣けてきてしまった。
日本、楽しんでくれて嬉しかった。コンビニを楽しんでくれて嬉しかった。
(すてきな笑顔を見せてくれて嬉しかった)
さようなら、推し。
さようなら。

「Je rencontrai plus tard!!」
明らかにあせった顔で、そのひとがそう言った。
「わ、わかんない」
「I'll be back soon!!」
「え? バック?」
バック!? 戻ってくるの!? ここに!?

そのひとは、
早口でスマートフォンに何かを吹き込み、私に見せた。

- 泣かないで。必ずまた来ます。あなたに会いに来ます。

「え」
私に、会いに……?
「Au Revoir」

ヴァイオリンの最後の一音が響いた。
とてもあたたかく、美しい余韻を残して。

春の太陽が、雪をきらめかせる。
冬が完全に終わりを告げようとしている。
だから、

「ありがとうございました!!」
と、
私は、さっそうとしたその背中に、明るく声をかけた。はなむけに。


2025.03.06
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Mika Aoi 2025