太陽のような君と夏の恋

○朝〜昼・蒼依の家のリビング〜台所へ
ソファの真ん中に人一人程度の隙間を開けて座り、テレビでゲームをする二人。

蒼依「今日どうした? 具合でも悪いのか? ……少し休憩するか」
柚葉「ごめん、全然集中できなくて……なにか飲み物用意するね」
蒼依「おー、悪いな」

ふと柚葉は、我が家のように勝手知ったる様子で蒼依の家の台所に立つ自分におかしさが込み上げてくる。

柚葉(いつから当たり前のようにお互いの家を行き来してるんだっけ……確かそう、六歳の時に蒼依達が隣に引っ越してきて……)

回想シーンに入る。

○回想・子ども時代の公園
小さな蒼依が転んで泣いている。そこに同じく小さな柚葉が駆け寄る。

小さな柚葉「だいじょうぶ?」

柚葉は膝から血を流す蒼依を見て、すぐに自分のハンカチを取り出して傷を拭く。

小さな蒼依「……ありがとう……」
小さな柚葉「おうち、どこ? 連れてってあげる!」

蒼依の家へ向かう二人。辿り着いた先は、柚葉の家の隣だった。そこで初めて隣の男子が先日「ひっこしのあいさつ」をしてきた子だと気付く。

小さな柚葉「……おうち、隣なんだね」

蒼依は無言で頷くが、内心「気付いてなかったのか」と少し落胆している。

○現在・蒼依の家の台所に戻る
柚葉(確かその時に私のお母さんと蒼依のお母さんが意気投合して、それ以来なにをするんでも二家族一緒になったんだよね。あれからもう十年かあ……)

飲み物を作りながら、台所のカウンターに飾られた写真を眺める柚葉。先日両家の家族全員で温泉旅行に行った時の集合写真だ。

柚葉(旅行、楽しかったな……)

そこに、パタパタとせわしない足音が聞こえてくる。見れば蒼依の母・茜が立っていた。

蒼依母「やだもう、忘れ物しちゃった……! あら柚葉ちゃん!」
柚葉「あ、茜さん」
蒼依母「蒼依ったら飲み物くらい自分で用意しなさいこの子はもう……! ごめんねえ柚葉ちゃん」
柚葉「気にしないで、私が飲みたかっただけだから。それに今日は私が寝坊しちゃって、朝ご飯は蒼依に作ってもらったの」
蒼依母「そう? なら良いけど……、ほんと、あなたたち二人は小さい頃からいつも一緒ね。あの時、隣に引っ越してきて良かったわ」

蒼依母は写真を見ながら優しく微笑む。

蒼依母「そうそう、この間も柚葉ちゃんのお母さんと『もう二人は家族みたいなものね』って話してたのよ」

蒼依母がクスリと笑う。

柚葉「私も時々本当に兄弟みたいだなって思ってる」

蒼依母「……なるほどね。いけない、もう行かないと。あ、そうそう、今日のお夕食は四人で外食なんてどう? 美味しい料理の写真を送ってご両親を唸らせるの」
柚葉「それいい! じゃあ今日は夕飯の準備はしないでおくね」
柚葉の言葉に頷いて、腕時計を確認して慌てて玄関へと走って行く蒼依母。
それを軽く見送った柚葉はレモネードとミルクたっぷりのアイスコーヒーを持ってリビングに戻る。

柚葉(確かに、これだけ一緒に居たら、色々分かっちゃうよなあ……)

手元のドリンクに目を落としながら内心独りごちる柚葉。

柚葉「はい、きっと今日はこれの気分だろうと思って」

蒼依へとレモネードを手渡す柚葉と、笑顔で受け取る蒼依。

蒼依「お、さっすが! さんきゅー。やっぱ夏はこれだよなあ……」

さっきの隙間の半分程度開けて蒼依の隣に座る柚葉。そのことに気付いて少し口角が上がるけど、すぐに無表情に戻る蒼依。ぶっきらぼうに口を開く。

蒼依「涼介って元彼?」
柚葉「……聞こえてたの」
蒼依「まあね。それに今日ずっと様子が変じゃん」

蒼依(……金髪ってことは同じ学校じゃない、よな。俺の髪色を見て狼狽えるほどまだ好きなのか)

柚葉「……ごめん」
蒼依「いや、謝る事じゃないだろ。……なんで別れたの」
柚葉「ええ? 恥ずかしいし言いたくないよ」
柚葉(緊張しすぎてろくに話も出来なかったせいで呆れられて振られたなんて)
蒼依「……あっそ。別に良いけど髪色変えただけでそんな挙動不審になられるの、あんまり気分良くない」

蒼依(馬鹿だな俺。こんなこと言ったら余計嫌われるのに……)

ため息をつく蒼依。

○夜・蒼依の部屋
ベッドに横たわる蒼依。スマホを握りしめている。

蒼依「涼介……か」

スマホで写真主体のSNSを開き、古い柚葉の投稿にリアクションした人物一覧を辿る。

蒼依「はは……本当に金髪だな」

蒼依は少し考え込む。

蒼依(……もしかしたらこれはチャンスかもしれない……)

蒼依は決意の表情を浮かべる。