太陽のような君と夏の恋

○朝・学校の校門前
夏休み明け、制服で登校する柚葉。校門に近付くにつれ普段とは様子が違うことに気付く。
叱責する先生の声と、遠巻きに様子を窺う生徒達。

柚葉「どうしたんだろう……?」

首を傾げ、生徒達を避けながら校門に近付く柚葉。そこには金髪のままの蒼依と、怒った様子の教師が立っていた。

柚葉(嘘……)

佐藤「分かってるんだろうな、高瀬? そんな頭じゃここを通す事は出来ないぞ!」
蒼依「すみません……でも……」

蒼依は言葉を濁す。佐藤は手に持った黒髪スプレーを蒼依へと近付ける。

佐藤「今すぐこれを使うんだ」
蒼依「それは……」

蒼依は一歩下がり、佐藤の手を避ける。

佐藤先生「おい!」

再び近づく佐藤。蒼依はまた一歩後ずさる。この攻防が数回続く。
周囲の生徒たちからは「頑固だなぁ」という声や笑い声が漏れる。
柚葉は状況を見かねて、人混みを抜け出す。

柚葉「なにやってるの!?」

柚葉の声に、蒼依と佐藤、そして周囲の生徒たちの視線が集まる。

蒼依「柚葉……」
佐藤「ああ、夏目か。お前からもこの頑固者を説得してくれないか? 黒染めしないの一点張りで、校門を通すに通せない」

佐藤から事情を聞いた柚葉は蒼依の元へ駆け寄る。

柚葉「……どうして黒髪に戻さなかったの?」

蒼依は一瞬俯き、そして決意の表情で柚葉を見つめる。

蒼依「戻した瞬間、お前がまた俺を見なくなるんじゃないかって思ったら、無理だった」
柚葉「え……?」

周囲からどよめきが起こる。柚葉の頬が赤く染まる。

柚葉「そんなこと……」
蒼依「お前が俺を好きになるまで、戻せない」

蒼依の真剣な眼差しに、柚葉は言葉を失う。二人の周りで見ている生徒たちがざわめく。

生徒たち「えっ、なに、公開告白?」
生徒たち「マジかよ、やるな……」

佐藤は二人の様子を見て、大きなため息をつく。


佐藤「はあ…………ったく、今日一日だけだからな! 明日には必ず黒髪で登校させろ、いいな、夏目! お前が責任持つんだぞ!」

柚葉「はい……すみませんでした、ありがとうございます」
蒼依「……ありがとうございます」

「……若いって羨ましいぜ」などとぶつくさ呟きながら、柚葉と蒼依を手の平で追いやるような仕草を見せる佐藤。
佐藤の気が変わらないうちにと柚葉と蒼依が校門をくぐり抜けると、周りの生徒たちも興味深そうな視線を二人に向けつつ、徐々に校舎へと移動していく。

教室へ移動する道中、蒼依が呟くように謝罪する。

蒼依「ごめん、巻き込んで。……俺、バカだよな……」
柚葉「……うん、バカだよ。……だけどそれだけ私のこと好きなんだって分かって、ちょっと嬉しかった。……ごめんね、私が蒼依の気持ちにちゃんと答えなかったせいだよね」
蒼依「俺が勝手に柚葉を好きになって、柚葉に気持ちを押しつけてるだけなんだから気にするな。……迷惑かけたし、家に帰ったらちゃんと黒染めするよ」