〇 閑静な住宅街ー佐野家前
彩陽はタクシーを降りて、人気のない真っ暗な自宅前で項垂れる……。
彩陽「あーぁ……やっちゃった……」
(そうだよね……を遅くても7時までには帰るから……って、言っておきながら……とっくに9時を回ってしまっているんだもん……。2人だけで出かけちゃったかな……。タクシーまで使って大急ぎで帰ってきたんだけどな……)
彩陽の口からため息がもれる……。
彩陽「はぁ……」
(……正直、痛い出費……。でも……それ以上に気が重いよ……明日、どうしよう……)
明日のことを思い浮かべて、彩陽は憂鬱な気持ちが募っていき、さらに項垂れると共にため息が止まらない……。
彩陽「はぁ……」
(えっ、どうしてこんなにも憂鬱になっているのか……って? それは、ね……家族揃って誕生日のお祝いができなかったから!! 『えっ!?』って、驚いちゃうよね……。私がそうしたいからじゃなくて……これは私が生まれる前から……そう、パパとママが付き合った頃に決まったことなの。その決まりごとが2人が結ばれた後も続いている。
それぞれの誕生日の日は必ず夕飯時に皆が揃ってお祝いできるよう予定(仕事)を調節するんだ。
時には外食をして、お祝いすることもあるけど……。
そういう時は大抵、ママの誕生日なんだよね。
誕生日の日には決まって、誕生日である人の大好物をいつも以上に腕によりをかけてママが作ってくれるんだ! もちろん、ケーキも手作り!!
ママの誕生日の時はパパと私が苦戦しながら何とか料理を作るんだけど……普段、作り慣れていないこともあって……見た目も味もいまいち……。その変わり、『おめでとう』の気持ちはめいいっぱい込めてるよ!!
それでもママはすごーく喜んでくれるのだけど……パパと私がいたたまれなくなって……やむを得ず、外食にすることが多いんだ……。
一時期だけど、思春期の時……それがとても嫌で嫌で仕方がなかったんだ……。
だから、私は自分の誕生日の日、学校に行った後……部屋に籠もって出ていかなかった。
何度も声をかけられたけど……あの時は両親がすごくうざくて仕方がなかったんだよね……。ちょっとしたことが何故か、気に入らなくて……反発ばかり……ひどい言葉を口にしまくってた……)
その当時のことを思い出して、彩陽の胸がチクリ……と、痛む……。
彩陽「……っ……」
(翌日……学校に行くために身支度を整えてからリビング兼ダイニングキッチンに降りていくと……ママがキッチンで朝食を作ってて、パパはテーブル席に座って、新聞を読んでた。いつも通り……何も変わらない1日の始まりだと、思ったけど……違ってた……。オレンジジュースが飲みたくて、冷蔵庫へ向かうと……ゴミ箱が目についた……。そこには昨日、誕生日の飾りつけで使ったであろう装飾や料理が捨てられていたんだ……。
誕生日飾りも来年も仕えるものは大切に残しておいたり、食べきれなかった料理は次の日に食べたりして、普段から滅多なことがない限り、物を食べ物を粗末にしないのに……その時は違ったんだ……。
ふと、ママとパパの顔を見ると……微笑みを浮かべているけれど、どこか哀しみを抱えたママ……。
何か言いたげに見つめるパパの冷たい視線……。
私は辛くて苦しい気持ちが押し寄せてきてたまらなくなった……。
両親を哀しませるようなことをしちゃいけない……。
ごめんなさい……。
もう二度とこんなことはしない。
子どもながらにそう、思ったんだ……。
それから、少しずつ思春期も落ち着いていって……大人になった今でも誕生日のお祝いを大切にしてる……)
彩陽「はぁ……」
(もう二度と誕生日の時に両親を悲しませない……って、誓ったんだけどな……)
彩陽はハッとする。
彩陽「ーーっ……!」
(ーーって、そもそもそうなってしまったのはあいつのせいじゃん!)
彩陽の脳裏に満面の笑みを浮かべた理人が現れる。
彩陽「ん?」
(誕生日のお祝いすること……知ってるはずなのに……どうして? あんなことしたんだろう……)
ふと、彩陽の誕生日の日にいきなりプロポーズをしてきた理人に対して彩陽は疑問を抱くも……答えは分からず……その変わりに怒りが強くなる。
彩陽「ーーっ!」
(……知ってて、わざと……?)
理人『結婚して下さいっ!』
彩陽の脳裏に鮮明に理人にプロポーズされたシーンが蘇り、ドキッ! と、鼓動が高鳴る。
彩陽「……っ!」
(な、なに……ときめいてるのよっ!)
頭の中で何度も再生されるシーンに彩陽は急いで消し去ろうとする。
彩陽(き、消えて! 消えて!!)
やっとの思いで、理人からのプロポーズのシーンを脳裏から消し去り、彩陽はほっとする……。
彩陽「……っ……」
(……ねぇ……理人……本気、だったの……?)
星が瞬く、夜空を見上げて静かに心の中で理人に問い、一呼吸ついてから自宅へと入る。
◯佐野家内
彩陽は鞄の中から自宅の鍵を取り出し、玄関を開けて自宅に入り、リビングへと向かう。
リビングの扉を開いた瞬間……
パンッ! パンッ!!
クラッカーの鳴り響く音と共に室内の電気が灯り、両親の弾む声を耳にする。
両親「おめでとう〜!!」
彩陽「な、なに!?」
突然のことにただ、彩陽は驚くばかり……。
ふと、リビングの壁の飾りが目に映る。
彩陽(……お誕生日……&……婚約……おめでとう……)
驚きのあまり、彩陽は言葉を失う……。
彩陽「ーーっ!?」
そんな彩陽に対して、両親は満面の笑みを浮かべて口々に喋り始める。
母親「良かった……本当に良かった……」
父親「おいおい、めでたい日に……」
彩陽はまたも状況が理解出来ずに動揺し、声を発するも両親の耳には届いてはいない……。
彩陽「えっ、あっ……ちょっ……」
母親「だって、心配だったんたもの……。浮いた話1つ聞いたことがなくって……この子本当に大丈夫なのかしら……って……。私のように結婚願望があってもなかなか思うようにいかなくて、苦労してるのかしら……って、気がきじゃなかったもの……」
父親「……彩奈……」
母親「苦労した分、今はすごーく幸福だけど」
母親は涙を拭いながら、少し恥ずかしそうに……けれど、ハッキリと言う。
母親「だって、私を一途に愛し続けてくれる優しい旦那さまと可愛い娘を授かって、3人仲良く楽しく暮らすことが出来ているんだもの!! 出逢ってくれてありがとう」
父親「なーに、言ってるんだい。お礼を言うのはこっちの方だよ! 僕と出逢ってくれて、好きになってくれて、一緒にいてくれて本当にありがとう! これからも一緒に……僕の隣にいて下さい」
母親「まぁ……」
夫の言葉に妻は頬を赤らめ、2人は娘が側にいることも気にすることなく抱き合い、ラブラブっぷり全開。
彩陽「……あ、の……」
(あー完全に2人だけの世界に行っちゃってる……)
彩陽は心の中でツッコミを入れると同時に……ハッと父親が我に返る。
父親「おっと、すまん、すまん。つい、自分達のことを……」
母親「あら、やだ〜」
恥ずかしそうに母親が笑う。
父親は『コホン……』と、小さく咳払いをして……
父親「いや〜なにはともあれ、本当に良かった〜」
うん、うんと、首を上下に動かして満足げな表情を浮かべる。
夫の言葉に妻も満面の笑みを浮かべて、呟く。
母親「本当にそうね〜」
父親「まさか、こんな身近な男性が伴侶になるなんて! しかも、誕生日の日にプロポーズ……とは、なぁ〜パパもママもすごくびっくりしてしまったよ」
彩陽「な、なな……なんで、そのことをっ!?」
彩陽の驚きっぷりに両親は照れている勘違いする。
ママ「やーね、彩陽、そんなに照れなくても!」
パパ「そうだぞ!」
彩陽「照れてなんかない! ねぇ、なんでプロポーズされたこと……知ってるの!?」
彩陽の言葉にほんの一瞬、顔を見合わせた後……
父親「またまた〜」
母親「もー照れちゃって!」
彩陽(え、なに、なに!? その反応っ!!)
母親「知ってるんくせに〜?」
彩陽「な、にをっ!?」
父親「彩陽の誕生日の1週間前くらいだったかな〜。理人くんから連絡があって、彩陽の誕生日前日に話したいことがあるから、彩陽が仕事から帰る前に時間を作ってほしいってお願いされたんだ。そしたら……」
理人の声のみ。
理人『彩陽さんの誕生日の日にプロポーズします。結婚を認めて下さい』
父親「ーーって、頭を下げてお願いされたんだよ。いや〜今のご時世、こんなことを言っては時代遅れや差別用語だって言われかねないんだが……今どきの子は何を考えているのか……さっぱり分からなくて、結婚の挨拶もろくに出来ない……いや、わざわざしには来ない……とも、思っていたんだが……きちんとすべきことはするんだな〜と、感心したよ」
母親「やーねー陽一さんったら、理人くんはその辺はきちんとわきまえているわよ! なんたって、心配りが出来で優しい父親《あつし》さんと真面目できっちりとした性格の母親の子どもなんだもの!」
父親「そうか」
母親「理人くんを見てれば、分かるでしょ?」
父親「それもそうだな」
両親が顔を見合わせて笑い合う。
父親「どこの馬の骨とも分からん男性が挨拶に来るよりよっぽどいい! 安心だ!!」
両親の言動に少しずつ彩陽の苛立ちが募っていき、言葉を呟くもあまりにも小さな呟きのためにまたも両親の耳には届いていない……。
彩陽「……あ、んしん……?」
母親「ねぇ、いつからお付き合いしてたの? 全然気がつかなかったわ」
彩陽「……な、い……し……」
父親「パパもだ。まぁ、親にはバレないようにこっそりと、細心の注意をはらいながら付き合っていたんだろう? バレるといろいろと干渉されてしまうからな」
母親「親っていうのはそういう生き物なんだけどね」
『ね〜』と、両親が再び、顔を見合わせて嬉しいそうに声を弾ませて言う。
彩陽「付き合ってないからっ!」
両親「えっ?」
嬉しそうにはしゃいでいた両親の視線が彩陽に集まる……。
彩陽「嬉しそうにはしゃいでる場合じゃないでしょ! 冷静になってよく考えてみてよ!」
母親「……彩、陽……?」
父親「……っ……」
彩陽「母親同士が知り合いで、仲良く家族ぐるみの付き合いをしてる私にとってはただの幼馴染みの男の子だよ!? しかも9歳も年下の!! 弟って、言ってもおかしくない年で今日、18歳になったばかりの!! 普通に考えてありえないでしょ!?」
ピンポーン……。
玄関のチャイム音が室内に鳴り響く……。
母親「あら……はーい」
話の途中だが、慌ただしく母親は玄関に向かう。
リビングに残される2人。
重い空気を打ち消すように父親が彩陽の名前を呼ぶ。
父親「……彩陽……」
彩陽「ーーっ!」
ゆっくりと、彩陽との距離を縮めようと近づくも彩陽は拒否し、自室へと向かう。
◯佐野家ー玄関付近
彩陽が2階の自室に向かう途中、母親が来客ー真っ赤な赤い花束を抱えた理人を迎え入れているところだった。
母親「まぁ、理人くん!」
理人「こんばんは。夜分遅くに食いません……」
母親「いいのよ、気にしないで。さっ、上がって!」
理人「はい」
彩陽と理人の目が合う。
彩陽「ーーっ……!」
彩陽はさっき両親に言い放った言葉が理人にも聞こえたんじゃないか……と、思い込み、バツの悪そうな表情をし、さらに急いで自室へと向かう。
そんな彩陽を理人は気に止める……。
彩陽はタクシーを降りて、人気のない真っ暗な自宅前で項垂れる……。
彩陽「あーぁ……やっちゃった……」
(そうだよね……を遅くても7時までには帰るから……って、言っておきながら……とっくに9時を回ってしまっているんだもん……。2人だけで出かけちゃったかな……。タクシーまで使って大急ぎで帰ってきたんだけどな……)
彩陽の口からため息がもれる……。
彩陽「はぁ……」
(……正直、痛い出費……。でも……それ以上に気が重いよ……明日、どうしよう……)
明日のことを思い浮かべて、彩陽は憂鬱な気持ちが募っていき、さらに項垂れると共にため息が止まらない……。
彩陽「はぁ……」
(えっ、どうしてこんなにも憂鬱になっているのか……って? それは、ね……家族揃って誕生日のお祝いができなかったから!! 『えっ!?』って、驚いちゃうよね……。私がそうしたいからじゃなくて……これは私が生まれる前から……そう、パパとママが付き合った頃に決まったことなの。その決まりごとが2人が結ばれた後も続いている。
それぞれの誕生日の日は必ず夕飯時に皆が揃ってお祝いできるよう予定(仕事)を調節するんだ。
時には外食をして、お祝いすることもあるけど……。
そういう時は大抵、ママの誕生日なんだよね。
誕生日の日には決まって、誕生日である人の大好物をいつも以上に腕によりをかけてママが作ってくれるんだ! もちろん、ケーキも手作り!!
ママの誕生日の時はパパと私が苦戦しながら何とか料理を作るんだけど……普段、作り慣れていないこともあって……見た目も味もいまいち……。その変わり、『おめでとう』の気持ちはめいいっぱい込めてるよ!!
それでもママはすごーく喜んでくれるのだけど……パパと私がいたたまれなくなって……やむを得ず、外食にすることが多いんだ……。
一時期だけど、思春期の時……それがとても嫌で嫌で仕方がなかったんだ……。
だから、私は自分の誕生日の日、学校に行った後……部屋に籠もって出ていかなかった。
何度も声をかけられたけど……あの時は両親がすごくうざくて仕方がなかったんだよね……。ちょっとしたことが何故か、気に入らなくて……反発ばかり……ひどい言葉を口にしまくってた……)
その当時のことを思い出して、彩陽の胸がチクリ……と、痛む……。
彩陽「……っ……」
(翌日……学校に行くために身支度を整えてからリビング兼ダイニングキッチンに降りていくと……ママがキッチンで朝食を作ってて、パパはテーブル席に座って、新聞を読んでた。いつも通り……何も変わらない1日の始まりだと、思ったけど……違ってた……。オレンジジュースが飲みたくて、冷蔵庫へ向かうと……ゴミ箱が目についた……。そこには昨日、誕生日の飾りつけで使ったであろう装飾や料理が捨てられていたんだ……。
誕生日飾りも来年も仕えるものは大切に残しておいたり、食べきれなかった料理は次の日に食べたりして、普段から滅多なことがない限り、物を食べ物を粗末にしないのに……その時は違ったんだ……。
ふと、ママとパパの顔を見ると……微笑みを浮かべているけれど、どこか哀しみを抱えたママ……。
何か言いたげに見つめるパパの冷たい視線……。
私は辛くて苦しい気持ちが押し寄せてきてたまらなくなった……。
両親を哀しませるようなことをしちゃいけない……。
ごめんなさい……。
もう二度とこんなことはしない。
子どもながらにそう、思ったんだ……。
それから、少しずつ思春期も落ち着いていって……大人になった今でも誕生日のお祝いを大切にしてる……)
彩陽「はぁ……」
(もう二度と誕生日の時に両親を悲しませない……って、誓ったんだけどな……)
彩陽はハッとする。
彩陽「ーーっ……!」
(ーーって、そもそもそうなってしまったのはあいつのせいじゃん!)
彩陽の脳裏に満面の笑みを浮かべた理人が現れる。
彩陽「ん?」
(誕生日のお祝いすること……知ってるはずなのに……どうして? あんなことしたんだろう……)
ふと、彩陽の誕生日の日にいきなりプロポーズをしてきた理人に対して彩陽は疑問を抱くも……答えは分からず……その変わりに怒りが強くなる。
彩陽「ーーっ!」
(……知ってて、わざと……?)
理人『結婚して下さいっ!』
彩陽の脳裏に鮮明に理人にプロポーズされたシーンが蘇り、ドキッ! と、鼓動が高鳴る。
彩陽「……っ!」
(な、なに……ときめいてるのよっ!)
頭の中で何度も再生されるシーンに彩陽は急いで消し去ろうとする。
彩陽(き、消えて! 消えて!!)
やっとの思いで、理人からのプロポーズのシーンを脳裏から消し去り、彩陽はほっとする……。
彩陽「……っ……」
(……ねぇ……理人……本気、だったの……?)
星が瞬く、夜空を見上げて静かに心の中で理人に問い、一呼吸ついてから自宅へと入る。
◯佐野家内
彩陽は鞄の中から自宅の鍵を取り出し、玄関を開けて自宅に入り、リビングへと向かう。
リビングの扉を開いた瞬間……
パンッ! パンッ!!
クラッカーの鳴り響く音と共に室内の電気が灯り、両親の弾む声を耳にする。
両親「おめでとう〜!!」
彩陽「な、なに!?」
突然のことにただ、彩陽は驚くばかり……。
ふと、リビングの壁の飾りが目に映る。
彩陽(……お誕生日……&……婚約……おめでとう……)
驚きのあまり、彩陽は言葉を失う……。
彩陽「ーーっ!?」
そんな彩陽に対して、両親は満面の笑みを浮かべて口々に喋り始める。
母親「良かった……本当に良かった……」
父親「おいおい、めでたい日に……」
彩陽はまたも状況が理解出来ずに動揺し、声を発するも両親の耳には届いてはいない……。
彩陽「えっ、あっ……ちょっ……」
母親「だって、心配だったんたもの……。浮いた話1つ聞いたことがなくって……この子本当に大丈夫なのかしら……って……。私のように結婚願望があってもなかなか思うようにいかなくて、苦労してるのかしら……って、気がきじゃなかったもの……」
父親「……彩奈……」
母親「苦労した分、今はすごーく幸福だけど」
母親は涙を拭いながら、少し恥ずかしそうに……けれど、ハッキリと言う。
母親「だって、私を一途に愛し続けてくれる優しい旦那さまと可愛い娘を授かって、3人仲良く楽しく暮らすことが出来ているんだもの!! 出逢ってくれてありがとう」
父親「なーに、言ってるんだい。お礼を言うのはこっちの方だよ! 僕と出逢ってくれて、好きになってくれて、一緒にいてくれて本当にありがとう! これからも一緒に……僕の隣にいて下さい」
母親「まぁ……」
夫の言葉に妻は頬を赤らめ、2人は娘が側にいることも気にすることなく抱き合い、ラブラブっぷり全開。
彩陽「……あ、の……」
(あー完全に2人だけの世界に行っちゃってる……)
彩陽は心の中でツッコミを入れると同時に……ハッと父親が我に返る。
父親「おっと、すまん、すまん。つい、自分達のことを……」
母親「あら、やだ〜」
恥ずかしそうに母親が笑う。
父親は『コホン……』と、小さく咳払いをして……
父親「いや〜なにはともあれ、本当に良かった〜」
うん、うんと、首を上下に動かして満足げな表情を浮かべる。
夫の言葉に妻も満面の笑みを浮かべて、呟く。
母親「本当にそうね〜」
父親「まさか、こんな身近な男性が伴侶になるなんて! しかも、誕生日の日にプロポーズ……とは、なぁ〜パパもママもすごくびっくりしてしまったよ」
彩陽「な、なな……なんで、そのことをっ!?」
彩陽の驚きっぷりに両親は照れている勘違いする。
ママ「やーね、彩陽、そんなに照れなくても!」
パパ「そうだぞ!」
彩陽「照れてなんかない! ねぇ、なんでプロポーズされたこと……知ってるの!?」
彩陽の言葉にほんの一瞬、顔を見合わせた後……
父親「またまた〜」
母親「もー照れちゃって!」
彩陽(え、なに、なに!? その反応っ!!)
母親「知ってるんくせに〜?」
彩陽「な、にをっ!?」
父親「彩陽の誕生日の1週間前くらいだったかな〜。理人くんから連絡があって、彩陽の誕生日前日に話したいことがあるから、彩陽が仕事から帰る前に時間を作ってほしいってお願いされたんだ。そしたら……」
理人の声のみ。
理人『彩陽さんの誕生日の日にプロポーズします。結婚を認めて下さい』
父親「ーーって、頭を下げてお願いされたんだよ。いや〜今のご時世、こんなことを言っては時代遅れや差別用語だって言われかねないんだが……今どきの子は何を考えているのか……さっぱり分からなくて、結婚の挨拶もろくに出来ない……いや、わざわざしには来ない……とも、思っていたんだが……きちんとすべきことはするんだな〜と、感心したよ」
母親「やーねー陽一さんったら、理人くんはその辺はきちんとわきまえているわよ! なんたって、心配りが出来で優しい父親《あつし》さんと真面目できっちりとした性格の母親の子どもなんだもの!」
父親「そうか」
母親「理人くんを見てれば、分かるでしょ?」
父親「それもそうだな」
両親が顔を見合わせて笑い合う。
父親「どこの馬の骨とも分からん男性が挨拶に来るよりよっぽどいい! 安心だ!!」
両親の言動に少しずつ彩陽の苛立ちが募っていき、言葉を呟くもあまりにも小さな呟きのためにまたも両親の耳には届いていない……。
彩陽「……あ、んしん……?」
母親「ねぇ、いつからお付き合いしてたの? 全然気がつかなかったわ」
彩陽「……な、い……し……」
父親「パパもだ。まぁ、親にはバレないようにこっそりと、細心の注意をはらいながら付き合っていたんだろう? バレるといろいろと干渉されてしまうからな」
母親「親っていうのはそういう生き物なんだけどね」
『ね〜』と、両親が再び、顔を見合わせて嬉しいそうに声を弾ませて言う。
彩陽「付き合ってないからっ!」
両親「えっ?」
嬉しそうにはしゃいでいた両親の視線が彩陽に集まる……。
彩陽「嬉しそうにはしゃいでる場合じゃないでしょ! 冷静になってよく考えてみてよ!」
母親「……彩、陽……?」
父親「……っ……」
彩陽「母親同士が知り合いで、仲良く家族ぐるみの付き合いをしてる私にとってはただの幼馴染みの男の子だよ!? しかも9歳も年下の!! 弟って、言ってもおかしくない年で今日、18歳になったばかりの!! 普通に考えてありえないでしょ!?」
ピンポーン……。
玄関のチャイム音が室内に鳴り響く……。
母親「あら……はーい」
話の途中だが、慌ただしく母親は玄関に向かう。
リビングに残される2人。
重い空気を打ち消すように父親が彩陽の名前を呼ぶ。
父親「……彩陽……」
彩陽「ーーっ!」
ゆっくりと、彩陽との距離を縮めようと近づくも彩陽は拒否し、自室へと向かう。
◯佐野家ー玄関付近
彩陽が2階の自室に向かう途中、母親が来客ー真っ赤な赤い花束を抱えた理人を迎え入れているところだった。
母親「まぁ、理人くん!」
理人「こんばんは。夜分遅くに食いません……」
母親「いいのよ、気にしないで。さっ、上がって!」
理人「はい」
彩陽と理人の目が合う。
彩陽「ーーっ……!」
彩陽はさっき両親に言い放った言葉が理人にも聞こえたんじゃないか……と、思い込み、バツの悪そうな表情をし、さらに急いで自室へと向かう。
そんな彩陽を理人は気に止める……。
