〇 オフィス街(夕方)
退社時間を迎え、次々とオフィスから鞄を手にした人々が出てくる。
広告代理店に務める佐野 彩陽もその1人で、少し疲れた表情を浮かべつつ、勤め先の会社の正面玄関を出た瞬間……
理人「結婚して下さいっ!」
言葉と共に彩陽の目の前に大きな真っ赤な薔薇の花束が差し出され、プロポーズされる。
彩陽「ーーっ……」
突然のことに彩陽は驚き、言葉を失うと同時にその場に立ち尽くす……。
彩陽(えっ……これ、って……どう、いう……こ……と?)
全くもって状況が理解出来ない彩陽に対してブレザー姿の男子高校生ー大津 理人は真剣な眼差しで彩陽を一心に見つめていた。
彩陽「……」
理人「……」
お互いに言葉なく、束の間の沈黙……。
周りの人A「なに、あれ……」
周りの人B「かわいー」
周りの人C「やらせ?」
周りの人D「すげぇーな……」
退社中、2人のやりとりを偶然、目にした周りの人々が声を潜め、口々に囁き合う声が彩陽の耳に届き、ハッと我に返る。
ガシッ!!
言葉なく、勢いよく理人の腕を掴むと彩陽はその場から逃げるように立ち去る。
その様子を一部始終、少し離れた場所で谷崎 友紀が目にしていた……。
友紀「ーーっ……」
友紀は複雑な表情を浮かべていた……。
それともう1人……。
こちらは物陰に隠れながら理人の様子を伺う女子高生ー永井 柚衣《ゆい》の姿があった。
友紀と柚衣がそれぞれに想いを抱えながら2人を見つめていることに当の本人達は気がついていない……。
〇オフィス街から少し離れた細い路地
彩陽は無言のまま……飲食店や洋服店、雑貨店などが立ち並ぶ場所の路地裏に理人を連れていき、問い詰める。
彩陽「ちょっと、どういうつもりよっ!!」
理人「どういうつもりもなにも……彩陽ちゃんが憧れていたことでしょ?」
彩陽「はぁ?」
(何、言ってんの……?)
彩陽は怪訝そうに理人を見つめ、理人は彩陽の反応を目にして、反応を伺うように尋ねる。
理人「……まさかとは思うけど……」
彩陽「……?」
理人「……覚えてない?」
彩陽「覚えてないって、何を?」
理人「さっきのことだよ」
彩陽「さっきのことって……あのね、さっきから一体、なんなの!?」
ますます彩陽は理人の言葉にいら立ちを募らせていく……。
理人「……その様子だと、覚えてなさそうだね……哀しいな……」
しゅんと肩を落として哀しそうに落ち込む理人を見て、彩陽の胸がチクッと痛む。
彩陽「……っ……」
理人「覚えてないのなら……」
彩陽「……?」
理人「……彩陽ちゃん」
きりっとした顔つきで真剣な瞳で真っ直ぐに彩陽を見つめる。
その変わりように彩陽の鼓動が「ドキッ!」と、高鳴る。
理人「年の差もあって、周りの人達からいろんなこと言われて嫌な思いや哀しい思いもさせると思う……。それ以上に幸福にする……! ずっと生涯愛し続ける……!! 好きだよ、愛してる……俺と結婚して下さいっ……」
理人は抱えていた薔薇の花束をもう一度、彩陽に差し出す。
彩陽「なっ……なによっ、さっきからなんなの!? からかわないでっ!!」
理人「からかってなんかないっ!! それに……さっきも言ったけど、これは彩陽ちゃんが憧れてたことでしょ?」
彩陽「だーかーらーこんなこと憧れっ……」
不意に彩陽の脳裏に声が響き、彩陽の言葉は途中で途切れてしまう……。
彩陽の声のみ
彩陽『きゃー、ステキっ!!』
紫陽『年の差もあって、周りの人達からいろんなこと言われて嫌な思いや哀しい思いもさせると思う……。それ以上に幸福にする……! ずっと生涯愛し続ける……!! 好きだよ、愛してる……俺と結婚して下さいっ……』
彩陽『いいな〜憧れちゃう!』
その声は紛れもなく彩陽の声……と、いっても15歳の時のことで、彩陽は「あっ!」と、いう表情を浮かべる。
彩陽(……って、言った……かも……)
15歳の時の声をきっかけに彩陽の脳裏にある出来事が鮮明に蘇る。
◯(回想)12年前ー彩陽の家のリビング
彩陽ー15歳
理人ー6歳
彩陽は目をキラキラさせながらTV画面をまっすぐに見つめている。
少し離れた場所で理人がおもちゃの車を走らせて遊んでいた。
ヒーロー(紫陽)『結婚して下さいっ!』
大きな薔薇の花束を抱えたヒーローがヒロインに告白をしてあるシーンでTV画面は静止された。
彩陽はキッチンで夕飯の準備をしている母親に向かって話し出す。
彩陽「ねぇ、ママーっ! よくない? このシーン……マジで、よくない?」
母親「はい、はい。そうね」
母親は苦笑いを浮かべながら返事をする。
母親「もう何度も見てるのに……よく飽きないわね〜」
彩陽「飽きるわけないじゃんっ!! だって、紫陽くんだよ!? 紫陽くんが告白してるシーンなんだよ!?」
彩陽は興奮気味に言葉を続ける。
彩陽「しかも、ヒロインの誕生日の日に!! 8歳年の差があって、周りから色んなこと言われてて、すれ違っちゃうんだけど……最後の最後でハッキリと自分の想いを伝えて告白するんだよ!! プロポーズするにしてもヒロインが幼少期の頃にポロッ……と言ってた『誕生日の日に真っ赤な赤い薔薇の花束を差し出されながら……』って、今は亡き両親と同じようにプロポーズされることに憧れてるってことをずーっと覚えてて……」
彩陽は頬を赤らめながら歓喜の声を上げてさらに喋り続ける。
彩陽「きゃー、ステキっ! ステキすぎ〜!! いいな〜私もそういうプロポーズされたーい!! めちゃくちゃ憧れちゃう!!」
母親「ふふ……そうなったらいいわね〜」
彩陽「ねーいいよね〜。いいな〜。いいな〜」
羨ましながら彩陽はTV画面を見つめ、プロポーズ対する憧れを募らせる姿を理人は静かに見つめていた。
(回想終了)
◯オフィス街から少し離れた細い路地
12年前のことを思い出して、彩陽の顔色が冴えない……。
そんな彩陽の様子を見て、理人は口を開く。
理人「……思い出したようだね、良かった」
満面の笑みを浮かべる理人の微笑みは意味深で、彩陽はゴクリ……と、生唾を飲み込む。
理人「ーーと、いうことで……」
彩陽「……っ……」
理人「結婚しよっ!」
彩陽「なっ……」
理人「無事に思い出してくれたことだし、ねっ!」
彩陽「何が『ねっ!』よっ! 冗談じゃないわっ! それにあれはその時に憧れてたことで……」
(そう、そうだよっ! あの頃はアイドル兼俳優の河野 紫陽くんのことがすごーく好きで、熱心に推し活してたっけ。同じ『陽』がつくっていうことも相まって……でも、いつの間にか、その熱は冷めしまったけど……今でも好きな芸能人には変わりはないんだけどね。懐かし……。
だから、現実にそうなるって、思ってなかった……。心の片隅であれはTVドラマの中のお話……作り話だもの、現実とは違う……)
複雑な表情を浮かべる彩陽に対して、理人はさらりと言う。
理人「憧れてたことが現実となった。それの何に戸惑う必要があるの? 何の問題もないでしょ?」
彩陽「……何の、もん……だ、いも……ない……?」
コクッ……と、理人は頷いて言葉を続ける。
理人「喜ぶべきじゃないかな? 現に俺はすごーく喜んでくれると思ってたんだけどな」
彩陽「問題大ありよっ!」
理人「ーーっ!?」
彩陽はキッと鋭い瞳で理人を睨みつけながら言葉を言い放つ。
彩陽「ありえないっ!」
理人「あり……えない……って……」
彩陽の言葉に理人はきょとんとした表情を浮かべる。
彩陽「こんなことありえないでしょ! だって、そうでしょ!? 私達はただの幼なっ……!?」
いきなり、理人が彩陽を壁際に追いやる。
理人「それが何?」
彩陽「ーーっ……なっ、なに……」
理人「幼馴染みだから、ありえないって? じゃ、今から……」
彩陽「えっ……」
理人「俺を1人の男性として見てよ……」
彩陽「ーーっ……!!」
落ち着いた声と真剣な瞳の理人を目の前にして、彩陽の鼓動が『ドキッ!』と、高鳴る……。
理人「……ねぇ……」
理人の長い指先が彩陽の頬をゆっくりと撫でて、顎をとらえる。
彩陽「……あっ……」
理人「……彩陽」
そして……ゆっくりと理人が距離をつめていく……。
彩陽「ありえないっ!!」
ドンッ!!
彩陽は勢いよく理人の胸を押して、その場から走り去る。
その際、片腕で抱えていた花束が地面へと落ちる……。
理人「……彩陽……ちゃん……」
走り去る彩陽の後ろ姿を理人は追うことなく、哀しげな瞳でただ見つめる……。
退社時間を迎え、次々とオフィスから鞄を手にした人々が出てくる。
広告代理店に務める佐野 彩陽もその1人で、少し疲れた表情を浮かべつつ、勤め先の会社の正面玄関を出た瞬間……
理人「結婚して下さいっ!」
言葉と共に彩陽の目の前に大きな真っ赤な薔薇の花束が差し出され、プロポーズされる。
彩陽「ーーっ……」
突然のことに彩陽は驚き、言葉を失うと同時にその場に立ち尽くす……。
彩陽(えっ……これ、って……どう、いう……こ……と?)
全くもって状況が理解出来ない彩陽に対してブレザー姿の男子高校生ー大津 理人は真剣な眼差しで彩陽を一心に見つめていた。
彩陽「……」
理人「……」
お互いに言葉なく、束の間の沈黙……。
周りの人A「なに、あれ……」
周りの人B「かわいー」
周りの人C「やらせ?」
周りの人D「すげぇーな……」
退社中、2人のやりとりを偶然、目にした周りの人々が声を潜め、口々に囁き合う声が彩陽の耳に届き、ハッと我に返る。
ガシッ!!
言葉なく、勢いよく理人の腕を掴むと彩陽はその場から逃げるように立ち去る。
その様子を一部始終、少し離れた場所で谷崎 友紀が目にしていた……。
友紀「ーーっ……」
友紀は複雑な表情を浮かべていた……。
それともう1人……。
こちらは物陰に隠れながら理人の様子を伺う女子高生ー永井 柚衣《ゆい》の姿があった。
友紀と柚衣がそれぞれに想いを抱えながら2人を見つめていることに当の本人達は気がついていない……。
〇オフィス街から少し離れた細い路地
彩陽は無言のまま……飲食店や洋服店、雑貨店などが立ち並ぶ場所の路地裏に理人を連れていき、問い詰める。
彩陽「ちょっと、どういうつもりよっ!!」
理人「どういうつもりもなにも……彩陽ちゃんが憧れていたことでしょ?」
彩陽「はぁ?」
(何、言ってんの……?)
彩陽は怪訝そうに理人を見つめ、理人は彩陽の反応を目にして、反応を伺うように尋ねる。
理人「……まさかとは思うけど……」
彩陽「……?」
理人「……覚えてない?」
彩陽「覚えてないって、何を?」
理人「さっきのことだよ」
彩陽「さっきのことって……あのね、さっきから一体、なんなの!?」
ますます彩陽は理人の言葉にいら立ちを募らせていく……。
理人「……その様子だと、覚えてなさそうだね……哀しいな……」
しゅんと肩を落として哀しそうに落ち込む理人を見て、彩陽の胸がチクッと痛む。
彩陽「……っ……」
理人「覚えてないのなら……」
彩陽「……?」
理人「……彩陽ちゃん」
きりっとした顔つきで真剣な瞳で真っ直ぐに彩陽を見つめる。
その変わりように彩陽の鼓動が「ドキッ!」と、高鳴る。
理人「年の差もあって、周りの人達からいろんなこと言われて嫌な思いや哀しい思いもさせると思う……。それ以上に幸福にする……! ずっと生涯愛し続ける……!! 好きだよ、愛してる……俺と結婚して下さいっ……」
理人は抱えていた薔薇の花束をもう一度、彩陽に差し出す。
彩陽「なっ……なによっ、さっきからなんなの!? からかわないでっ!!」
理人「からかってなんかないっ!! それに……さっきも言ったけど、これは彩陽ちゃんが憧れてたことでしょ?」
彩陽「だーかーらーこんなこと憧れっ……」
不意に彩陽の脳裏に声が響き、彩陽の言葉は途中で途切れてしまう……。
彩陽の声のみ
彩陽『きゃー、ステキっ!!』
紫陽『年の差もあって、周りの人達からいろんなこと言われて嫌な思いや哀しい思いもさせると思う……。それ以上に幸福にする……! ずっと生涯愛し続ける……!! 好きだよ、愛してる……俺と結婚して下さいっ……』
彩陽『いいな〜憧れちゃう!』
その声は紛れもなく彩陽の声……と、いっても15歳の時のことで、彩陽は「あっ!」と、いう表情を浮かべる。
彩陽(……って、言った……かも……)
15歳の時の声をきっかけに彩陽の脳裏にある出来事が鮮明に蘇る。
◯(回想)12年前ー彩陽の家のリビング
彩陽ー15歳
理人ー6歳
彩陽は目をキラキラさせながらTV画面をまっすぐに見つめている。
少し離れた場所で理人がおもちゃの車を走らせて遊んでいた。
ヒーロー(紫陽)『結婚して下さいっ!』
大きな薔薇の花束を抱えたヒーローがヒロインに告白をしてあるシーンでTV画面は静止された。
彩陽はキッチンで夕飯の準備をしている母親に向かって話し出す。
彩陽「ねぇ、ママーっ! よくない? このシーン……マジで、よくない?」
母親「はい、はい。そうね」
母親は苦笑いを浮かべながら返事をする。
母親「もう何度も見てるのに……よく飽きないわね〜」
彩陽「飽きるわけないじゃんっ!! だって、紫陽くんだよ!? 紫陽くんが告白してるシーンなんだよ!?」
彩陽は興奮気味に言葉を続ける。
彩陽「しかも、ヒロインの誕生日の日に!! 8歳年の差があって、周りから色んなこと言われてて、すれ違っちゃうんだけど……最後の最後でハッキリと自分の想いを伝えて告白するんだよ!! プロポーズするにしてもヒロインが幼少期の頃にポロッ……と言ってた『誕生日の日に真っ赤な赤い薔薇の花束を差し出されながら……』って、今は亡き両親と同じようにプロポーズされることに憧れてるってことをずーっと覚えてて……」
彩陽は頬を赤らめながら歓喜の声を上げてさらに喋り続ける。
彩陽「きゃー、ステキっ! ステキすぎ〜!! いいな〜私もそういうプロポーズされたーい!! めちゃくちゃ憧れちゃう!!」
母親「ふふ……そうなったらいいわね〜」
彩陽「ねーいいよね〜。いいな〜。いいな〜」
羨ましながら彩陽はTV画面を見つめ、プロポーズ対する憧れを募らせる姿を理人は静かに見つめていた。
(回想終了)
◯オフィス街から少し離れた細い路地
12年前のことを思い出して、彩陽の顔色が冴えない……。
そんな彩陽の様子を見て、理人は口を開く。
理人「……思い出したようだね、良かった」
満面の笑みを浮かべる理人の微笑みは意味深で、彩陽はゴクリ……と、生唾を飲み込む。
理人「ーーと、いうことで……」
彩陽「……っ……」
理人「結婚しよっ!」
彩陽「なっ……」
理人「無事に思い出してくれたことだし、ねっ!」
彩陽「何が『ねっ!』よっ! 冗談じゃないわっ! それにあれはその時に憧れてたことで……」
(そう、そうだよっ! あの頃はアイドル兼俳優の河野 紫陽くんのことがすごーく好きで、熱心に推し活してたっけ。同じ『陽』がつくっていうことも相まって……でも、いつの間にか、その熱は冷めしまったけど……今でも好きな芸能人には変わりはないんだけどね。懐かし……。
だから、現実にそうなるって、思ってなかった……。心の片隅であれはTVドラマの中のお話……作り話だもの、現実とは違う……)
複雑な表情を浮かべる彩陽に対して、理人はさらりと言う。
理人「憧れてたことが現実となった。それの何に戸惑う必要があるの? 何の問題もないでしょ?」
彩陽「……何の、もん……だ、いも……ない……?」
コクッ……と、理人は頷いて言葉を続ける。
理人「喜ぶべきじゃないかな? 現に俺はすごーく喜んでくれると思ってたんだけどな」
彩陽「問題大ありよっ!」
理人「ーーっ!?」
彩陽はキッと鋭い瞳で理人を睨みつけながら言葉を言い放つ。
彩陽「ありえないっ!」
理人「あり……えない……って……」
彩陽の言葉に理人はきょとんとした表情を浮かべる。
彩陽「こんなことありえないでしょ! だって、そうでしょ!? 私達はただの幼なっ……!?」
いきなり、理人が彩陽を壁際に追いやる。
理人「それが何?」
彩陽「ーーっ……なっ、なに……」
理人「幼馴染みだから、ありえないって? じゃ、今から……」
彩陽「えっ……」
理人「俺を1人の男性として見てよ……」
彩陽「ーーっ……!!」
落ち着いた声と真剣な瞳の理人を目の前にして、彩陽の鼓動が『ドキッ!』と、高鳴る……。
理人「……ねぇ……」
理人の長い指先が彩陽の頬をゆっくりと撫でて、顎をとらえる。
彩陽「……あっ……」
理人「……彩陽」
そして……ゆっくりと理人が距離をつめていく……。
彩陽「ありえないっ!!」
ドンッ!!
彩陽は勢いよく理人の胸を押して、その場から走り去る。
その際、片腕で抱えていた花束が地面へと落ちる……。
理人「……彩陽……ちゃん……」
走り去る彩陽の後ろ姿を理人は追うことなく、哀しげな瞳でただ見つめる……。
