潮のにおいひかる春の昼休み。
図書館で踊るきみを見た。

空気の入れ替えでもしていたのだろうか。
大窓には誰かがそっと忍び込んだような隙間があり、その名残なのかグレーの厚いカーテンがふうわりとふくらんでいた。

何かをさがすような、もとめるような白い指先。さくら貝の爪。
長いまつ毛に海の香りの光がキラキラしていた。立ち姿が美しく、しなやかで、それでいて、
動画のように現実感がなかった。
分厚い美術書や百科事典から香る年季の入ったにおいで、ようやっと、目の前のひとが今、僕の前にいるのだと知った、
昼休み。

音楽の代わりにおだやかな海の音が聞こえた。校庭で部活動をする活気のある声。教師の怒号。それにかぶさるいたずらっぽい笑い声。
踊る。
西洋風の踊りを、ゆっくりと。ほんの少しずつ画面が変化する古い映画のように。

授業中、
うまく教科書が読めずに恥ずかしい思いをした。
さっきの出来事がまざまざと脳裏に蘇ってきたが、それすらどうでも良いと思える。
きみはきれいだ。

「美しい」を、うまれてはじめてしる。

ふと、
きみの均衡をこわしたい気分になった。
すらりと伸びる腕を、まっすぐで長い脚を。
しかし、
それはコンピュータの画面を割るようなものだ。動画はこわれないし、きみもこわれない。
ゆらがない。

春の海の祝福を受けて、
ひかりかがやく。

「あ、
英語の時間に朗読させられてたやつ」