君の瞳の中で生きてみたくて


「久世さぁ、俺が高校の時に大賞取った絵、覚えてる?」

伊澄くんの言葉にわたしは過去を辿り、伊澄くんが描いた絵を思い出した。

「確か、女の子の絵だったよね?水色を基調として描いた。」
「そう。あのモデル、実は久世なんだ。」
「えっ、、、」

突然の伊澄くんの告白に驚くと共に信じられない気持ちで、何と言葉を返して良いか分からなかった。

何で、わたしを描いてくれたんだろう、、、

「それを出版社に出して、今に至る。だからある意味、俺が今ここに居れるのは久世のおかげだな。」
「え、、、でも、何でわたしを、、、」
「あの時、、、歩道橋に立ってた久世に声を掛けた時、ふとこっちを振り向いた時の表情が忘れられなくて。それを描いたら大賞取れて、漫画家になれた。」

伊澄くんはそう言うと、微かに微笑み「サンキューな。」と言ったのだった。

あの時のわたしの表情、、、

わたし、あんな顔してたんだ。

驚いているような、切ないような、今にも泣き出しそうな、、、そんな顔してたんだなぁ。

「そういえば、伊澄くん、わたしの小説読んでくれたんだって?恥ずかしいんだけど、、、」
「あぁ、読んだよ。良い作品だった。」
「でも何で伊澄くん、描こうと思ってくれたの?恋愛系、描いたことないよね?」
「まぁ、、、無いけど、挑戦してみたい気持ちは元々あって。それで久世の作品読んだら、そこには恋ってだけじゃなくて、人間の昏い部分とか、誰にも見せれない部分とか、人間クサイとこもあって、これなら描いてみたいって思ったんだ。その作者が久世だなんて、、、」

伊澄くんはそう言ってクスッと笑うと、「何か納得だわ。」と呟いた。