君の瞳の中で生きてみたくて


「まさか、久世とこんな形で再会するとはな。」
「本当だね。」
「まぁ、座って。」

伊澄くんに言われ、わたしは「失礼します。」とソファーに腰を掛けた。

「伊澄くん、いつも暗い中で絵描いてるの?」
「あぁ。暗い方が落ち着くから。」

そう言って、キッチンに向かった伊澄くんは冷蔵庫を開けると、「烏龍茶、ジャスミン茶、カフェラテ、どれがいい?」と言った。

「じゃあ、烏龍茶で。」

わたしがそう答えると、伊澄くんは冷蔵庫から出してきた500mlの烏龍茶のペットボトルをわたしに差し出してくれた。

「ありがとう。」

伊澄くんは一度、立ったままさっきまで絵を描いていたタッチパネルをいじり、横に置いてあるパソコンを操作すると「はぁ、完了。」と言った。

「伊澄くん、凄いね。まさか月光下弦が伊澄くんだったなんて思わなかったよ。いつから、この仕事してるの?」
「19ん時から。」
「えっ?!高校卒業してからすぐ?!」

わたしがそう驚いていると、伊澄くんはわたしの隣に腰を下ろし、「俺、漫画家以外に考えられなかったから。」と言った。

「でも、だからって簡単になれるものじゃないよ!凄い!」
「俺には選択肢がなかったんだ。コミュニケーションが苦手で人と何かをやるのが合わなくて。でも、漫画家なら一人で出来るし、絵を描くのだけは小さい頃から好きで、ダメ元で高校卒業してから、自分の描いた絵を今の出版社に送ったんだ。そしたら、運良く連絡がきて、連載からやらせてもらえるようになった。」

そう話す伊澄くんは相変わらず表情は無表情で、でもどこか嬉しそうだった。