そばにいるって、君が忘れないように

私はすぐには屋上から降りず、近くに捨てられていた使い古しの椅子に腰かけてた。

私の周りには、夏の匂いがする生温かい風が吹いた。


「今、この瞬間も、どんどん時間は過ぎていくんだね」
 

私は独り言を呟く。
 
風は少し強く吹き、私の髪を靡《なび》かせた。


「おい、悩みことでもあんのか」


その声は、風の波に乗って私の耳に入って来た。
 
私は「べつに」と答えながら横を見た。
 
私にはその声の持ち主が分かっていた。


「……」
 

創先輩は何も言わずに私のとなりに腰かけた。
 

「なんか悩みがあんなら、聞くけど」
 

彼は照れ臭そうに指で鼻の下を擦った。


「いや、そんなのないですって……」
 

少々苦しみの交えた笑みを浮かべながら創先輩を見ると、彼は澄みきった碧空のような瞳をこちらに向けていた。

その瞳は、私の全てを、その世の全てを包み込んで癒してくれる、そんな風に私には見えた。