〇私立黒岡学園高校の体育館(放課後)
 伊織、玲司、昴が制服姿で入る
 伊織の制服を見て、生徒達が騒ぐ
女子生徒A「えっ凄い、本物の聖カメリアだ!」
女子生徒B「御嬢様が来た!」
男子生徒A「おい、お茶を出せ! いやコーヒーか!?」
男子生徒B「インスタントしかないんだけど……!」
 ドタバタと走り回る生徒達
 伊織、隣の玲司と昴に耳打ちする
伊織「凄くびっくりさせちゃったね」
玲司「学校の行事とはいえ、私服で来た方が良かったかもしれないな」
昴「結構賑やかなんだな」
 伊織、今日の交流会の事を思い出す

〇(回想)カフェ・フルクトゥスの個室
 伊織、玲司、昴の三人だけ
伊織「今日は涼ちゃんいないんだね」
玲司「演劇部の発表会が近いらしい」
昴「こっちは学校主催なのに、そっちが優先なんだな」
玲司「涼君も二年だ。おざなりにはできないんだろう」
 三人で、飲み物を嗜む
 昴、ふと口を開く
昴「なあ。あいつの所、行ってみないか?」
伊織・玲司「え?」
昴「何だよ、そんなに意外か? 四人での交流会なのに、三人でお茶しててもしょうがないだろ」
玲司「昴君……涼君の学校生活を見てみたいのだな」
 玲司は感涙するが、伊織は昴の本音を察する
伊織(お茶会に飽きたのかな……)
玲司「連絡はしておこう」
 玲司、スマホを操作してメッセージを打つ
伊織「じゃ、今日は趣向を変えて、学校見学だね」
(回想終了)

〇私立黒岡学園高校・体育館(放課後)
 生徒達が大忙しで立ち回っている
 他校性が来た事だけではなく、いきなりの事態に焦ってもいる
 三人はパイプ椅子を勧められて座る
男子生徒A「あのっ、交流校の方々ですよね!? ぜひ観て行って下さい!」
 玲司、スマホを確認し、
玲司「すまん……よく見ると返事が来ていない……涼君はきっとメッセージを見ていない」
 玲司、周りを見渡し、部長の生徒を見つけ、挨拶に行く
昴「台本ありますか?」
女子生徒A「どうぞー」
 昴、飄々とした態度でリクエストする
 受け取った台本が三部あったので、伊織と、戻ってきた玲司にも手渡す
 伊織、台本を受け取るが、中は開かない
昴「お。始まる」
 体育館の前方にある、舞台の幕が開く

〇私立黒岡学園高校・体育館の壇上(放課後)
 衣装を着た生徒達が、演技をしていく
伊織(王様が治める国。御姫様は、同じ国の騎士に想いを寄せている。でも、御姫様は隣国の王子との縁談が決まっている。王子は、御姫様のそんな想いを知っている……)
 王子役の涼、颯爽とした足取りで舞台に出る
涼「姫! 今日は良い日だ、世界にはほの暗く雨が降り注いでいても、こうして君と会う事ができた」
 伊織、中学時代の涼を思い出す
 当時の涼は、もっさりとした黒髪で、冴えない印象だった
 今の涼は、髪を明るく染め、自信に満ちた表情で、舞台に立っている
 姫役の女子生徒、気丈に明るく振る舞う演技をする
姫「ええ、本当に……」
伊織(姫は心苦しい。騎士への想いを断ち切る事もできない。苦悩する中、畳みかけるように国の情勢が一変する。王の弟が王を暗殺し、姫は騎士に守られて、城を脱出する……)
 涼(隣国の王子役)、使用人A(男子生徒)から知らせを聞く
涼「そうか……」
男子生徒「何という事でしょう……これでは婚約はどうなるのか」
男子生徒(使用人B)「失礼します! 隣国の国王から書状が届きました! こちらでも姫の捜索に協力して欲しい、との事です!」
涼「――第一部隊から第三部隊を姫の捜索に。それ以上を割く事はできない。我が民の安寧が最優先だ」
男子生徒「はっ!」
 男子生徒二人が去る
 残った涼に、スポットライトが絞られる
 姫との思い出の象徴である、婚約の書状を掲げながら、
涼「――君はどこに行くんだ?」
 ×××
中学時代の涼「伊織ちゃんはどこに行くの? 東高……は無理だよね。南高? 黒岡?」
 ×××
涼「君の国か? この国か? それとも……あの騎士の手を取り、ただの女として、よそで生きていくつもりか? 一国の姫として生まれ育った君が?」
 ×××
中学時代の涼「えっ、聖カメリア!? あの超御嬢様学校の!? どうしてまた……絶対に受からないよ、筆記はどうにかなっても面接があるんだよ? それに環境が違い過ぎる。きっと辛い思いをするよ」
 ×××
 スポットライトが消える
 涼の姿が暗闇の中に溶ける
 場面が変わり、姫(女子生徒)と騎士(男子生徒)が出てくる
 劇が終わる
 最後に、役者達が全員出てくる
 伊織、玲司と昴と共に拍手をする
 壇上の涼と目が合う