〇聖カメリア女学園高等部の校舎・生徒会室(放課後)
 伊織、新聞部の部員からインタビューを受けている
新聞部の部員「前回は失礼しました……。交流会での、初めてのお出かけはどうでしたか?」
 伊織、顔を赤らめ、
伊織「実は、緊張して……何を話したらいいのか、気恥ずかしくて……頭が回らなくて。桜に見とれながら、重箱を頂いて……終わって、しまいました」
新聞部の部員「まあ。藤原の君と、晴美様がお喜びになりますわ」
T「藤原の君は高等部三年の生徒。実家の庭園だった藤原御苑を寄贈した実業家の曾孫である。また、花見の際の重箱は、晴美が直々に指揮を執り、伊織の好物ばかりを詰め込んだ」
新聞部の部員「こうしてお話をお伺いしている私も、ドキドキしてしまいました」
伊織「と、いうと?」
新聞部の部員「伊織さんのお顔が、桜よりも綻んでいて……恋に揺らめく、乙女の顔でしたから」

〇カフェ・フルクトゥスの個室(放課後)
 伊織、昴、涼がいつもの席順で座っている
伊織(乙女の顔って何?)
 伊織、コーヒーの表面に映った自分の顔を見つめる
昴「それで次は俺とのお出かけでいいよな。伊織さん」
伊織「うん?」
 伊織、聞き返したのだが、昴は了承と捉えたらしく、満面の笑みを浮かべている
涼「待った。伊織ちゃん、話を全然聞いてないよ」
昴「五月最後の金曜日まで待つのはまどろっこしいから次の金曜日にお出かけしたい。相手は俺。以上」
伊織「前例が無いけど……といっても今回が初めてだもんね、交流会自体」
 伊織、スマホを取り出す
伊織「玲司さんも、今日は来られないみたいだし」
 伊織の手に、昴の手が重なる
昴「今は俺と伊織さんの話をしているんだ。他の男の名前は出さないで」
伊織「他の男って、玲司さんだよ」
涼「それに、何だかんだで今までまとめてきてくれたのは玲司兄さんだろ。蔑ろにするような事は言わない」
昴「別に蔑ろにはしていない。あとでメッセージを送っておけばいい。それで納得されなくても、別に構わない」
涼「別にって――」
 伊織、パンと両手の掌を打つ
伊織「じゃあこうしよう。次の金曜日に、私と昴君のお出かけって案が出た。それでいいかメッセージを送る。オッケーが出たら決行。駄目だったら、五月最後の金曜日に行く。今回はそうしよう。ね」
 伊織、昴の頭をぽんぽんと撫でる
昴「……オッケーが出たら決行だぞ」
伊織「分かってるよ」
昴「返事が来なかったらどうする」
伊織「返事は来るよ。絶対に。玲司兄さんは」