〇(回想)伊織と涼の中学時代、一階にある文芸部の部室(放課後)
 部室に一人だけ、涼がいる
 この頃はモサッとした黒髪で、冴えない印象
 机の上にメモや本が散らばっているが、アイディアはまとまり切っていない
 溜息をつき、窓の外を見る
 軽快な足取りが近づき、ぴょこっと伊織が顔を出した
 涼、慌てて窓を開ける
伊織「よ! お疲れさんもすー」
涼「お疲れ。休憩中?」
伊織「そ! これ持ってくるの忘れちまってさぁ、うっかり」
 伊織、スポーツドリンクを入れたトートバッグを持ち上げる
 伊織、この頃は髪の毛先も跳ねていて、窓枠に寄りかかる仕草も少年っぽい
伊織「そっちは?」
 涼、背後をちらりと見て、首を横に振る
伊織「だろうなぁ」
涼「だろうな、って」
 涼、カチンとくる
 伊織、へらっと笑う
伊織「だって放課後ずーっとここに籠もりっきりだろ。できねえのに何も変えねえもん。そりゃ思い付けねえさ」
涼「うぐっ。なんて正論だ」
伊織「いっそ走るか?」
涼「いいよ。今日はタオルとか持ってないし」
伊織「あー、汗を掻くのが嫌だもんなぁ。繊細君」
 伊織、トートバッグの中をごそごそと探り、カロリーバーを涼に向かって放る
 涼、上手くキャッチできず、カロリーバーが床に落ちる
 伊織、おかしそうに笑う
伊織「それ食って元気出せよ。じゃあな」
 伊織、走っていく
 涼、カロリーバーを拾い上げる
涼「もう、いろいろと雑だな……ん?」
 涼、カロリーバーがチーズケーキ味である事に気づく
 更に、マジックペンで「頑張り過ぎるな」と書かれていた
 涼の顔が赤くなる
涼「もう……本当に、こういうところ……」
 涼、項垂れる
(回想終了)