ぶーってよばないで!

【レッスン室 A】
「周ちゃん、どうしたの?」
「真瑠璃ちゃん。僕、話したいことがあるんだ。」
どうしたんだろう。いつも元気いっぱいの周ちゃんが、何か思い詰めたような表情をしている。
「周ちゃん?」
「僕……ウィーンに留学することにした。」
「え⁉︎」
「ずっと悩んでいたんだ。日本で勉強するか、海外で勉強するか。」
「すっすごい、周ちゃん凄すぎるよ。留学先って⁉︎」
「うん。本宮先生の恩師のリオン先生がいる、ウィーン国立音楽大学。」
「やっぱりね!この間公開レッスンを受けた時に、リオン先生、周ちゃんのこと大絶賛してくれていたもんね!」
「うん。」
「周ちゃんは、どんどん雲の上の存在になっちゃう。私なんか、とてもライバルなんて言えないよ!」
私は、大興奮で次から次へと言葉が出てきて止まらない。
やっぱり、周ちゃんはすごいんだ!
周ちゃんのピアノが認められて、私もとても嬉しい!
「……」
「周ちゃん、私、ずっと応援しているよ!」
「僕…本当は、東京の大学で真瑠璃ちゃんと一緒に学生生活送りたかったんだ。」
「周ちゃん…」
「でも、僕、絶対もっともっと成長して日本に帰ってくるから!だから、僕のこと…」
周ちゃんから言われるなんて想像もしていなかった言葉。
私の心ははち切れそうになっていた。
心の中が少しザワザワとしていて、落ち着かない。
でも、誰にも話せない。
私は…。