【小百合ヶ丘学園】
「ぶー助けて!」
「瑛里どうしたの?って。だから、ぶーって呼ばないで!」
「私、もう参加したくないの!お願い、ぶー!」
瑛里がいつものポーズで私を拝む。
「あ〜冬季講習ね!本宮先生から言われたのね!」
「ぜんぜん楽しくなかったし!もう嫌だ!」
「そう?帰りに三人であんみつ屋さんにも寄れたし、楽しかったじゃん!」
「それは楽しかったよ、周司が荷物全部持ってくれたし!」
「楽しかったの、そこ?」
「とにかく!私、もうあんな窮屈な思いしたくないの。大学なんてどこでもいいの!」
「え⁉︎瑛里、東京芸術大学行きたいんじゃないの?」
「もう別にいい。ピアノもそんなに好きじゃなくなったし!」
瑛里は昔から言い出したら聞かない。よく言えば意志が強いけど、悪く言えば…。
「真瑠璃ちゃ〜ん、瑛里ちゃ〜ん!」
よっ!救世主登場!
「周ちゃん!聞いて!絵里が、冬季講習行かないって聞かないの。」
「え⁉︎瑛里ちゃん、冬季講習行かないの?」
「行かないの!周司に言われたって絶対いかないからね、ベーだ。」
「一緒に行こうよ!入試前の最後の勉強のチャンスだよ?」
「私ね、もうどこの大学でも良いの!そもそも、周司やぶーみたくピアノがうまいわけでもないし!」
「僕は、瑛里ちゃんの演奏大好きだよ!」
「やめて!そんなこと言われたって行かないもんね、ベーだ。」
「私も瑛里の演奏大好きだよ!」
「とにかく‼︎もう、あんな窮屈な思いはしたくないの!」
「わかった!瑛里、篤人くんと離れ離れになるのが嫌なんでしょ?そうでしょ?」
ニヤリと笑いながら瑛里を見る私に、思いもよらない返事が返ってきた。
「もう、とっくの昔に別れた。」
「え⁉︎」
別れた⁉︎うそ⁉︎
恒例の電話攻撃がなかったから全然知らなかった。
「とにかく‼︎ちょっと考えておく。」
「瑛里ちゃん、考えると言っても締切は今週金曜日だよ。」
「分かってる!後ろ向きに考えておく!」
そう言って、瑛里はさっさと教室へ戻っていった。