【夏期講習】
今日から夏休み。と言っても、私は志望校合格への道を切り拓くため、同じ門下生の周ちゃんと瑛里と一緒に、大学の夏期講習へ参加することとなった。
「周ちゃん、忘れ物ない?ちゃんと楽譜持ってきた?」
「持ってきた!大丈夫!」
「真瑠璃ちゃんこそ、忘れ物ない?」
「ない!大丈夫!昨日、寝る前にちゃんと確認したからね!」
「やっぴー‼︎」
周ちゃんが両手を上げて飛び跳ねる。今日の周ちゃんは、いつもよりもずっとずっと楽しそう。
私も頑張らなくちゃ。周ちゃんを見ていると、前向きな気持ちになる。
「瑛里は?忘れ物ない?」
「ない〜。なんか、夏期講習行きたくないな、気が重い。」
トランクを押したり引いたりしながら、下を向く瑛里。
「まだそんなこと言ってるの?瑛里ちゃん。ファイト!」
「周司は、なんで朝からそんなにテンションが高いの?」
「だって!この三人で参加できるんだよ⁉︎それだけで嬉しいじゃん。頑張ろうね、やっぴー!」
「周司に元気吸い取られる、ため息でる〜。」
「瑛里ちゃん、酷い。」
「だってそうじゃん。朝からやっぴーやっぴーって。何よ?そのやっぴーってのは。」
「もう!せっかく三人で楽しく過ごしたいと思っているのに!瑛里ちゃんはいつもそう言う水を指す言い方をする!」
「あぁはいはい、私が悪くないけど悪かったって言うことにしていいよ。ごめんねごめんね。あっかんべーだ。」
「もお!瑛里ちゃんはいつもそうだよ!」
いつもこの展開だ。
瑛里と周ちゃんは、いつも口論になるけれど、実はとっても気が合うと思う。
「まあまあ、二人とも。じゃあ、東京駅に着いたら、まずはホテルにチェックインだよね。荷物置いたら、ロビーに集合しよう!大学の練習室が借りられるのは、十六時から一時間だったよね!」
「そう!だから、荷物置いて寝る時間はないね!」
「周ちゃん、寝るつもりだった?」
「うん!」
「あはは!じゃあ、練習終わったら早めにホテルに戻ろう。」
「えー⁉︎早くホテル帰っても楽しくないじゃん!新宿で晩御飯食べようよ!」
瑛里が不満そうな顔で訴える。
「食べたいけど…明日、朝早いよ⁉︎」
「僕、早く帰って眠りたいよ〜。」
「もう、周司は付き合い悪い!ぶーは?」
「だから、ぶーって呼ばないで!私も明日早いから、早めにホテルに戻る。」
「もう!本宮門下生は真面目すぎる!せっかくの東京なのにさ。じゃあ、プリクラだけ撮らない?お願い!ぶー様ッッ!」
でたでた、またこれだ。
両手を合わせて拝む瑛里。
それに、『ぶー様ッッ』って何よ。私は神様でも仏様でもない。
「じゃあ、それは夏期講習頑張ったご褒美にしよう!」
「真瑠璃ちゃん良い事言ったよ!大賛成。」
「も〜!ぶーも周司も付き合い悪すぎてつまんな〜い。」
こんな感じで、私たちの夏期講習はスタートした。