最愛から2番目の恋

 やがて……思案に耽っていたクラシオンが口を開いた。


「お前は、どうして帰らなかった?」

「何の事ですか?」

「輿入れしてきた日だ。
 あれ程、理不尽に罵られ、あからさまに俺とマリツァから貶められても。
 正妃より予算を多く与えた側妃に、子供が出来たと勝ち誇られても。
 どうして直ぐに、カリスレキアに帰らなかったのか、聞いている」

 初対面で、醜女だの、婚姻式を挙げたければカリスレキアに金をねだれだの、の世迷い言とマリツァの妊娠。
 あれくらい、普通に聞き流せていたガートルードだ。


「それは、殿下には最愛様がいらっしゃることは有名でしたし、ある程度は覚悟して参りましたから……ですが?」

「調べによると、お前はとてもおとなしい女で。
 クロスティアのユーシスに文句の1つも言えない女だから、直ぐにびーびー泣いて帰国すると思っていたのに、実際は全然違った」


 クラシオンも、ガートルードの婚約破棄について調べていたのだ。
 ……確かにあの時、クロスティアに対して文句は言わなかったが、びーびー泣いてもいませんよ。
 全ての女が、貴方の最愛様のように直ぐに泣くとは思わないように。
 その言葉も飲み込んで、ガートルードは微笑んだ。

 それは、ガートルードも心の内だけでだが、ユーシスと同様に不貞をしていていたのに、何食わぬ顔をして、彼に嫁入りするつもりで。
 弟の婚約者と浮気をしていたユーシスとは、お互い様だったからだ。


「では、殿下はわたくしを追い返そうとして、わざとあのように仰った?」