最愛から2番目の恋

 余程心配だったのだろう、駆け寄るケインの表情が歪んでいて。
 良い歳をした男が、泣きそうになっているのを見て。
 物事を斜めに見続けて、感情を素直に出せなくなっていたテリオスが、珍しく自分から肩を抱き
「待たせた、このままカリスレキアへ行く」とだけ告げた。
 そこからのテリオスの行動は早かった。


 王城へ戻ることなく、ガートルードの両親から許しを得るためにカリスレキアへ急ぐ彼からの説明は。

「聖下は、3年後の次代教皇選に出るおつもりだ。
 票を集めるには、今以上に資金が必要だと仰せになった。
 俺はこれまでよりも、もっと悪党になって、聖下を支えると約束したんだ。
 お前がもう側に居たく無いと思う日が来たら、いつでも離れてくれていいからな」

 何をどうやって、莫大な金が動く教皇選挙を勝ち抜くつもりなのかは、決して口にはしないが、テリオスの中ではその算段は既につけているようで。


「……利用するだけ利用したら……いつまでもこのままではいない」



 それを聞こえぬふりをして。
 ケインも、この先の自分について考えていた。


 まだ、間に合うのなら。
 まだ、彼女と父が俺を許してくれるのなら。

 侯爵家に戻り、辺境伯家に婿入りして、王太子を支え。


 何も聞かされなくても。

 ケインも彼と共に、悪党になると決めた。