彼女が先程口にしたブレイクとは、テレサの双子の弟で、彼もまたガートルードの専属護衛の任に就いていて、ここまで同行してきたのだが。
 当然アストリッツァには入国出来ず、引き渡しまでの警護任務中で。
 それをテレサは彼と共に逃げろ、とここに来てまで誘うのだ。


 実は、ガートルードはブレイク本人からも
「本当は行きたくないんだろ。
 姫が望めば、連れていってやる」と何度か言われたことがある。

 彼等の両親が守り役だったので、彼ともテレサと同様に、成人してもずっと気安い関係であり。
 私的な場では堅苦しい言葉遣いはしないで、とガートルード本人から頼んでいたので、ふたりきりの時のブレイクの口調は妹に向けるようにいささか偉そうでさえあった。



『お心が決まりましたら』『姫が望めば』か……
 ガートルードの心は、既に決まっている。
 

 彼でなければ、誰でも同じ。


 獅子の獣人である結婚相手のクラシオンのように、番と公言し、他の誰とも結婚しない、とまで。
 そこまで誓える程ではなく。
 最愛だの運命だの。
 面映ゆくて言えるはずもなく。



 けれど、幼い日。
 初めて会った時から。
 ずっと、この胸に秘めてきた確かな想いがある。


 だが、その相手は絶対に結ばれる事が無いひとだった。