会場は花の国メーリンで1番の景勝地に建てられた、大公家別邸の大広間。
 あろうことか、約束の時間に敢えて遅れて来るつもりか。
 受け取る側のアストリッツァ国特使一行が到着しておらず、間に入って立ち会いまでしてくださる大公ご夫妻に、ガートルード自ら頭を下げたところであるのに。


 カリスレキアに用意された豪華で広々とした待合室に入室するなり、後ろに控えていたテレサが、側に来てまでして。
 ガートルードの耳元に囁いた台詞がこれなのだから。
 ここでは笑って流すことなど出来ず、彼女はテレサを睨んだ。


「ここまで蔑ろにされますと、婚姻後が思いやられます。
 ブレイクに命じれば直ぐにでも、この場から連れ去……」

 主の睨みも無視して、身内ばかりの密室内とは言えども、不穏な事を言い出したテレサの言葉を遮るように。
 ガートルードはツンと前を向き、冷たく返事をした。


「それ以上、弟を巻き込んでまでして、企むのなら。
 反逆罪、不敬罪で、あなたをカリスレキアに追い返します」

「……申し訳ございません。
 後ろにて、控えておりますので。
 お心が決まりましたら、いつ何時でもお声掛けを」


 まだ言ってる、とガートルードは呆れたが、テレサの忠心は嬉しい。
 不遜なアストリッツァからは、侍女1名、専属メイド5名のみを入国可としていて、いの1番に手を上げてくれたのはテレサだ。