婚姻の申し入れがあったのは、8月。 
 輿入れは、翌年3月。
 その間、約7ヶ月。
 アストリッツァ国王太子クラシオンと。
 カリスレキア国第2王女ガートルードの顔合わせや手紙のやり取りなどの交流は、1度も行われ無かった。


 その期間、ガートルードのかつての婚約者クロスティアの第1王子ユーシスは、幼馴染みの侯爵令嬢クリスティアナ・ダンベルトとの初恋を実らせ無事に婚姻したと聞いたが、彼等は表舞台から姿を消し。
 その代わりに、継承権を失っていた第2王子のテリオス・ミロード・クロスティアが復権し王太子となっていたが、義理の姉になるはずだったガートルードとは、今では何の関わりも無いことだ。




「姫様、本当に。
 本当によろしいのですか? 今ならまだ間に合います。
 奴等が来る前なら」

 少女の頃からの侍女テレサが、昨年の夏から何度も繰り返した確認を、今もまた口にした。


「しつこいわよ、テレサ。
 ここまで来て、何を言うのやら」

 ガートルードが決めたクラシオンとの婚姻を、テレサが反対しているのは最初からで。
 これまで何度も面と向かって言われたし、その度に笑いながら流してきたが、さすがにここに来てまで言うとは。


 ここ、とは。
 母国カリスレキアと嫁入りする国アストリッツァとの中間に位置する国メーリン公国。
 メーリンの施政者ファン大公の好意により、両国はここで落ち合い、花嫁の受け渡しを行う事になったのだ。