目の前で夫と番にいちゃつかれた可哀想な妃に同情的なのは、彼等の騎士道精神からだろう。
 美しくない女は愛されないが、同情は買いやすい。



 慇懃無礼に対応されて、護衛達に置いていかれたクラシオンは、駆け寄るマリツァを抱き寄せて、前回と同じソファに座った。
 想像もしていなかった、女だてらに反撃する妻の部屋からこのまま逃げ出すのはプライドが許さないのだろう。
 こちらを睨み付ける強気なところは、さすが獅子の血を引くと褒めてもいい。
 さっきは妻に対して警戒心を持っていなかったから、反撃に回れたが、これから彼が用心すれば。
 ガートルードは、先程のように先手は取れないだろう。



「一方の言い分だけで、物事の判断をなさるのは如何なものでしょうか。
 わたくしは普通にお話をしていただけなのですよ?」

「……ち、違うわ!
 わたしは脅されて……ねぇラシィ信じて?」

「……」


 少しは血の気が引いたのだろうか。
 クラシオンは甘えるマリツァを制して、ガートルードを冷たい目で見ている。

 そしてその視線を外さないまま、固い口調で最愛に尋ねた。


「何を、どう脅されたのか、具体的に話してくれ」

 自分の護衛に冷たくあしらわれたことで、思うところがあったのだろうか。

 その夫の口調には、最愛の番に向ける先程までの甘い響きは無かった。