最愛から2番目の恋

 自分を守る、この国では2番目の権力を持つ番に抱き締められて。
 マリツァはいつもの調子を取り戻したように見えた。


「ラシィ、ラシィ、助けて?
 わたし、親切心で来てあげたのよ?
 それなのに彼女に脅されたのよ?
 こんなこんな、ひどい話がある?
 こんなんじゃ、貴方と、わたしの赤ちゃん……絶対に殺され……」


 愛するラシィの隣で、安定の疑問文を繰り出すマリィだが、『貴方とわたしの赤ちゃん』と言った?
 側妃は夫の子を、身籠っている?
 そんな報告は受けてはいなかった。
 まだ、皆には知らせていないのだろうか?


「お前っ! マリィによくもっ!」

 考えている最中に顔の辺りに夫の手が向かってきたので、思わずそれを避け。
 幼い頃から受けてきた訓練通りに、逆手に掴んだまま夫の背後に回り、膝裏を蹴って跪かせて、後ろ手にねじりあげる。


 片手でマリィを抱いたままで、こちらを殴るつもりだったのか。
 そんな軟弱な掌に、誰が大人しく平手打ちされてやるか。


「いっ、痛っ、痛い!」

 慌てた夫が離した番の方は、逃げる前にテレサが取り押さえた。
 妻の部屋に飛び込んだ王太子が大騒ぎしているので、護衛騎士達が部屋になだれ込んできた。

 ガートルードの護衛2名とクラシオンの護衛2名。
 彼等は目の前の状況に息をのみ、直ぐに行動出来ないようだ。


「こっ、この女を捕まえ、捕縛しろっ!」

 みっともなく膝をつかされた王太子が、わめいている。


「えっ、妃殿下を?」

「現場、現行犯だろうが!
 俺が取り押さえられてるのが見えないのかっ!」

「えっ、えっ?」


 自ら『取り押さえられてる』と必死に護衛達に訴えるのがおかしくて。