最愛から2番目の恋

 口座の開設は、紹介状を手にした本人がサンペルグ聖国に赴き、手続きをしなくてはならないが、出金は各国に点在する教会でも行える。
 本日のカッツェの登城に合わせて、昨日テレサがガードルートから預かった個人口座特別印を持って王都のサンペルグ聖教会へ行き、多めに出金してきたのだった。


 ガートルードがここまでカッツェに自分の財力を明らかにしたのは。
 アストリッツァの社交界で、お飾りの王太子妃は侮って良い人間ではないと知らしめるためであり。
 それを自分の口からではなく、噂によってクラシオンを始めとする王家の連中や宰相に分からせるためだ。
 加えて、カッツェが調子に乗らないようにするためでもある。


 人は慣れてくると、なぁなぁの気持ちを持ち出す。
 ドレスの適正価格など知らない贅沢好きな馬鹿な小娘だと舐めた金額を要求してくるかもしれない事態は避けたいからだ。
 これで、お前がそんな真似をしようものならいつでも潰せる、と教えたつもりだ。


 それでも下手に欲をかけば。
 来年に予定された東の国への旅は、もっと遥か遠くの、遠い空への旅立ちになる、とカッツェは分かってくれただろう。


「これからも、くれぐれも。
 よろしくお願いしますね」とガートルードが笑顔で言えば。


 眠気がすっかり失せたのであろうアヴァロン・カッツェは目を伏せ、深く頷いた。