最愛から2番目の恋

 案内しろと言われているのに、何も説明しないユーシスが足を止めて振り返ったのは、温室が見える場所だ。


「君は名前まで、可愛くないな。
 ガートルードなんて、童話に出てくる意地悪な継母か、悪い王妃みたいな名前だ」

 名前にまでケチを付けられた。
 何て奴、何て奴、何て奴!
 わたしだって、エレメインみたいな、そんな綺麗な響きの名前が良かったよ!

 けれど、直ぐに言い返せなくて唇を噛むだけだったのに。


「ガートルード、誰が聞いたって、高貴で落ち着いていて素敵な名前じゃないか。
 兄上の感覚がおかしいんじゃないの?
 急いでたのは、可愛い名前のあいつが待ってるんだろ?
 さっさと行けば?」
 
 この時、婚約者に意地悪を言う兄を追い払うようにして、助けてくれたのは弟王子だった。
 当然のようにクロスティア語で話すユーシスとは違い、彼はカリスレキア語で話し掛けてくれる。
 

「王女殿下のお名前なら、ガーティかトゥルーディになるのかな。
 愛称は、そのどちらかですか?」

「えぇ、ガーティ、と家族は呼びます」

「では、もっと親しくなれたら、僕もそう呼ばせていただいてもいいですか?」

「……はい」


 もっと親しくなれたら。
 貴方がわたしをカリスレキアの言葉で、愛称で呼んでくれるのなら。
 わたしも、その時から貴方の愛称を、クロスティア語で呼んでもいいですか? と。
 その時は聞けなかったし、その日は来なかったけれど。


「テリオス様は、ご家族からは何と呼ばれていらっしゃいますか?」

「……僕の家族は、誰も愛称では呼び合わないので。
 ただのテリオスです」