調書の写しを淡々と読み上げるテリオスの声に、かつてのヒルデガルド先生の声が重なっていく。


 先生が掌を5人の子供達に向け、反対の手の人差し指で、その箇所を説明する。


「アフヴァーナの毒はここ、指先と爪の間にある爪下皮から毒針を出し、対象物に注入します。
 1本の指に針は1本のみ、と言われています。
 では、10本の指全てに毒針が仕込まれているかと言えばそうではなく、1本の人も居れば、10本の人も居ます。
 また、普通は金か銀のどちらかのみですが、何10年かに1人金銀両方の毒針を持つ人物が現れると……」


 アレッサンドラが過去に殺人を犯している可能性もあるが、現在毒針を使用したと判明しているのは、王妃とガートルードに対しての2回。
 つまり、彼女は2本以上の毒針の持ち主だが、これで終わりなのか。
 2回とも銀の毒しか使用していないが、金の毒針は持っていないのか。

 そこは1番明確にするべきところなのに、調書には記載されていないとテリオスから聞き、やはり彼女を取り調べたサンペルグが情報を隠匿しているのかも、と胸のモヤモヤが治まらない。

 

「アレッサンドラも、25年もクイーネを騙し続けるなんて、どれ程の強力な洗脳を子供の頃に植え付けられていたのか……」

「普通だったら、クイーネに情が移って、何もかも話して、組織から抜けたくなるものな……
 本当の両親が幹部なのかもしれない。
 自分は高邁な理想を掲げる組織の一員で、使命を果たせるのは選ばれた自分しか居ないと言われ続けて、その肩に4神虫獣家の再興がかかっている、と刷り込まれて……
 個人よりも組織に属していることに安心する人間に作り替えられていたのかも。
 ただその割に、何の抵抗もなく簡単に自供するのも不自然で不気味だと思う」