あの日、ガートルードからもセシオンの傷は結構酷いものに見えた。
 しかし彼は妹を優先し、己を後回しにしようとしていた。
 テリオスにもそれが分かっていて、彼はセシオンを癒しの聖女の元に送り込もうとしていたのだ。

 ステファノ・ヴァルチに対しても、
「ガートルードを助けてくれた褒美だ」と偉そうに言って、公子公女と共にクロスティアへ行くように命じて、ケインを案内に付けた、と母から聞いた。


 周囲を観察して、さりげなく動いて、それをとぼける彼が、ガートルードにとっては昔から憧れだった。
 自分もどれ程、彼の気遣いに助けられてきたか。


「その言い過ぎなところも、わたしはいいと思う、って言いました?」

「今、初めて聞いた……」


 ずっと言えなかった分、ガートルードは今では素直にテリオスに気持ちを伝えるようになった。

 けれど、人前ではしない。
 テリオスの前限定だ。
 それは恋を知らない誰かに、この女は馬鹿だろう、と思われたくないからだ。