「おい、お茶も出ないのか、醜女は気も利かないな。
 面が悪いのなら、頭と気だけでも使えよ」

「えーっ、お茶なんか要らないよ?
 毒でも入れられたら、どーするの?」


 だから、わたしの悪口なら部屋の外で言い合え。
 犯人だと直ぐに分かるこの部屋で、誰が毒など盛るものか。
 そう言いたいのは我慢して、取り敢えず聞いてみた。


「クラシオン殿下、何用でいらっしゃったのですか?」

「へぇ、一応アストリッツァ語は学んできたのか。
 ならば通訳が要らず、予算も減らせる。
 では、教えてやろう。
 1ヶ月後に予定していた、お前との婚姻式は中止だ。
 その夜の閨も無い……いや、一生お前との閨は無いと心得よ。
 これは全部、そちらの、カリスレキアの国王のせいだからな!」


 話す言語が異なるカリスレキアから来たお飾り妃が、自分が話していた内容を理解していたと知り。
 高慢なクラシオンは特に何とも無いようであったが、マリツァは己の口元を押さえていた。
 厚顔無恥な夫とは違い、側妃の方は少しは恥を知っているのだろう。
 あの少し足りない物言いは擬態なのかも知れない、とガートルードは用心することにしたが、そんな隣の最愛の様子に気付かないクラシオンは、とうとうと理由を続ける。