最愛から2番目の恋

 ガートルードが、それから眠ることは無かった。

 睡眠不足を何も知らないテレサに心配されながら、目覚めの濃いめのお茶と簡単な朝食を部屋で取っていたところ、通常よりも強めのノックがされた。

 テレサが誰何する間もなく、世話役のアレッサンドラ・クイーネが入室してきた。
 いつも冷静な彼女が慌てていて、王太子妃への礼儀を欠いている。
 その理由は分かっているが、ガートルードはわざと怠惰に、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「おはよう、アレッサンドラ。
 なぁに、朝から……
 枕が合わなかったのね、わたくしあまり眠れてなくて。
 今夜は違う枕にしてちょうだい。
 それから、カリスレキアの両親が到着するまで、ゆっくり休ませて欲しいのだけれど。
 疲れているの、面倒な話は後にしてくださるかしら」

「……申し訳ございません。
 殿下が……王太子殿下が、夜の内に王都に戻られたようで……」

 余程、慌てているのだろう。
 いつも丁寧で、余裕のある対応のアレッサンドラが朝の挨拶も返せない。


「まぁ、そうなの、何て事でしょう。
 最愛様に会いたくて? 納体の儀を立ち会わずに?
 国王陛下も居られないのに、殿下まで?
 殿下の護衛からは、何の報告も無かったの?」

 夫に置いていかれたお飾り妃は矢継ぎ早に問い、報告に来た専属の世話役をわざと慌てさせる。


「……急ぎ、追いかけておりますが。
 昨夜庭に散歩に出るだけで、ひとりにしろ、と命じられていたようです」

「では、単身で王都へ?」

「いえ……それが妃殿下の専属のホレイシァも、姿が無く」