カリスレキア国第2王女ガートルードの婚約は破棄された。
 相手のクロスティア国第1王子のユーシス有責での破棄で、莫大な賠償金も手に入れた。


 この賠償金で一気に彼女の私有財産は膨れ上がり、自分の人生が終わるまでは余程の贅沢でもしない限り、余裕で暮らせるはずだったのに。


 世の中には物好きな者も、わずかばかり居るようで。
 近隣諸国に醜女として知られるガートルードに婚姻を申し込んできた国がまだあった。


 それはこの中央大陸では、唯一の獣人起源の国アストリッツァだ。
 こちらは近年、獅子の血を蘇らせたというレオニード家が王座に就いていて、何とガートルートのお相手は、その象徴である王太子クラシオンだと言う。
 つまり、彼女は王太子妃となり、ゆくゆくはアストリッツァ王妃になると言うこと。


 確かに、彼女の元婚約者も第1王子であったし、順当に行けばそのままクロスティアの王妃となる将来ではあったが。
 ユーシスはまだ立太子をしておらず、その先行きは不透明だったが、長年の婚約でガートルードは国内で王妃教育的なものも受けてきた。

 そんな『準備万端』なガートルードが良かったのだろうか……
 顔合わせなどしたことも無く、婚約期間を設けることも無い、獣人の国からの突然の婚姻申し込みにカリスレキア王家は揺れた。



「まさか、お父様、受けたりはしますまい?」

 普段はおとなしい顔をして、父を陛下とあがめ奉るふりが得意な姉、第1王女のエレメインが父に詰め寄る。
 この場に身内以外は宰相しか居ない、私的な部屋での会話だ。