『月城学園高等部』と傍に書かれた門を通り、学校の敷地内に足を踏み入れる。

紺色のセーラー服に結んだ白いリボンが揺れる。

胸より少し下に伸びた漆黒の髪は、先の方が少し内巻きになっている。

私、鈴崎美夜(すずさきみや)はいつものように『無の顔』をつくり、何事にも無関心な目をして前を向く。


何度、こうして門を通っただろう。

何度、こうした日々を過ごしただろう。

何も変哲のない毎日。
つまらない日常。

この世界には私が興味を向けるものなど一切ない。



「おはよ!」

「おはー」

「ねぇ、昨日のあれ見た⁉︎」

「もっちろん! あれヤバくなかった?」



人々でざわめく廊下を歩く。

蒸し暑く、思わず下を向いた。

人が多すぎる。
眉間に皺が寄りそうなのを堪えるのに必死だ。

どうしてこうも、人は誰かと一緒にいたがるのだろう。



「……あ、鈴崎さんだ……」

「え、あれが噂の? 本当だ、マジで無表情じゃん」

「中で何考えてんのか気になるわー」

「うわお前、気色悪っ!」



私の事について何か言われてるような気がする。
クスクスと笑う声がする。

でも、全て無視、無視。関わる必要はない。

言いたいなら好きなだけ言っておけばいい。

私に害が及ばない限り──。