そして、兄は忙しい母の代わりに家事を行っている。

名門大学に通っていて勉強やら部活やらで兄も忙しいはずなのに、毎日炊事に洗濯・掃除までしているのだ。

一回だけ手伝った方がいいか聞いたことがある。
あくまで社交辞令として、だったけれど。

けどその時は、



『俺がしたくてやってることだし、社会勉強にもなるし気にしないで』



と笑顔でやんわり断られた。



「……意味ないのに」



思わず、つぶやいてしまった。

慌てて口を抑える。

自分の意思でやっているらしいのだから、私が口を出す事じゃない。


と、ある事を思い出し、自分の部屋に荷物を置くと隣の部屋に入る。

扉を開けると、独特の畳の匂いが鼻をついた。

部屋の隅に敷かれた座布団上に正座し、お供え物をして目を閉じる。

特に思うことはないからすぐ目を開けると、むすっとした顔の父の写真が目に入った。

そう──父の、仏壇だ。