彼女を好きになったのは、一瞬だった。

月城学園高等部入学式。

学級会も終わり、俺は昇降口を出て校門への道を歩いていた。

暖かい日差しに目を細め、ゆっくりと視線を下ろしたその時。

──天使がいる、と思った。

なかなかベタなセリフだけど、本当にそう思った。

満開に近い桜の木を無表情で見上げている横顔。

肩より少し下の黒髪が風になびく。

透き通るように白くて小さな顔と細い手足。

流れるような目の形と、それでいて凛とした眼差し。

ただ立っているだけなのに醸し出されている儚さ。
今すぐ消えてしまいそうなほどの繊細さ。

感情に色は感じられなかったけれど、それさえも綺麗だと思った。

彼女は見られていることに気づかず歩き出す。

数秒間、俺は立ったまま固まっていた。

なんだろう、今の。
これが恋というものなのか。

俺は今までで一回も誰かを好きになったことはなかったし、告白されたことは数えきれないほどあるが交際経験も皆無。

だから『好き』というものが何か、
よく分かっていなかったけど。

今のはきっとそう。

一目惚れだ。

俺は彼女に、生まれて初めて一目惚れをしたんだ。