ONE NIGHT BATTLE


「独りよがりで下手くそなセックスしたら、鼻で笑ってやるから」

「そのくらいで許してくれんの?同僚振って俺を選んでくれたんだから、満足できなかったら罵ってくれよ」

そんなことさせないけど。とでも言うような挑発的な横顔。くそ。ムカつくのに本当に綺麗で見とれてしまう。


「避妊は絶対して」

「任せろ。あー、途中ドラストあるからゴム一緒に選ぼうぜ。お前どんなのが好き?」

「機能を果たして、バカ甘い人工的な匂いと味しなきゃなんでもいい」


ふ、何か言いたそうな含み笑いが、脳に警告音を鳴らす。


この男は危険だ。


「家の近くにうまい和食の店あるんだよ。朝メシ人気らしいから明日起きたら行こうぜ」

「わー楽しみー」

「棒すぎな。先言っとくわ。俺寝てる間に帰るなよ」


朝食は和食党の私には十分な誘惑材料だけど、悠に見透かされていた通り、ことが済めば帰るつもりだ。


ん、いや。

帰るなとか言っときながら、この経験豊富そうな男を満足させられず、鼻で笑われて寒空に放り出されるかも。

それとも万が一お気に召したら、クズ男の常套句『今は恋人を作る気はない』って、ずるずるセフレ堕ち?


どっちにしろ不愉快だ。


「澪となら本気で一晩中できそう」

「長けりゃいい、多けりゃいいってもんじゃないけど」

「そういうところ、澪ちゃんマジ好きだわ。強気なお前をもう無理って泣かしたい。この綺麗な顔を、俺がぐちゃぐちゃにして、どろっどろに甘やかしてえ」

「あんたの手練手管次第なんじゃない?」


「噛みつくねえ」と独言した悠が、おもむろにジャケットの胸ポケットから白いカードを取り出し、中指と人差し指で挟んだそれを、私の前に差し出す。

見慣れた企業ロゴが目に入り、唖然とした。


「澪ちゃんいい企業(ところ)にお勤めで」

「ちょっと...は?河上の名刺?」

「俺はもうお前のこと、離す気ねえから」


ふっと身体の力が抜け、立ちくらみで倒れそうになる。

抵抗も反抗もする気力が失せた。ピタリと寄り添う悠の身体にぐったりと身を委ね、悠の腰に腕を回した。


「オオガミ」

「ん?狼がなに?」

大神(おおがみ) 悠。俺の名前」

「...へー、そう...」

「仕事は、」「言わなくていい」


絶対終わったら帰るから。これきりだから知りたくない。

情が湧くかもしれないリスクは極力排除したい。


離す気ないからって、そんな言葉で惑わさないで。


せめてもの抵抗に瞳を閉じた。家までの道のりを覚えてしまわないように。




fin?