悠はカウンターに戻っていた。目が合い、口を開きかけた悠をわざと遮る私の言葉。
「行こう。ホテル?」
驚いて目を見開いた悠を無視してお会計に向かう。と、私を追い抜いた悠が、河上の分まで支払いを済ませた。
「ごちそうさま。ありがとう河上の分まで」
「どういたしまして」
「待ってお礼取り消し。当然の迷惑料ね」
「おい」
花粉が飛散し始めたというのに、朝晩はまだまだ肌寒い。
オフィス街の最寄り駅から近い繁華街。飲食店が多く、当然人も多い。
夜空には、ほんの少し星が見える。
歩みを進めた悠に腰を抱かれ、2、3歩小走りになる。
おかげで、まだ少しある迷いを店先に置いてこれた。
「ここから俺の家近いから俺んちな」
「あんたの家なんて知りたくもない。でも意外。家バレしたくないから女は連れ込まない主義かと思った」
「澪なら家に住み着いてもらって構わない。それいいな。ずっといろよ」
「よくそんな言葉がスラスラ出てくるもんね。でも喜ぶ女ばかりじゃないから」
「澪以外の女になんか言わねえよ。って言っても信じないんだろうけど...信じろよ」
グイ、腰を引かれ、突然のキス。重なる唇の隙間から強引にねじ込まれた舌が、舌を絡め甘く吸う。
突然のことで驚きすぎてフリーズする。やっと脳が情報を処理でき、抵抗を始めた。
離れても離れても追いかけられ、後頭部を押さえ込まれたところで諦め抵抗をやめる。文句は後で言ってやる。
くすぐったいリップ音を伴ってやっと解放され、全力で睨みつけたのに。
笑みを浮かべた唇に移ったレッドブラウンを、親指でグイと拭ったかと思うと、再び綺麗な顔が近づいてくる。
「本気でやめて。場所考えてよ、こんな路上で」
「...いや、マジ何やってんだ俺。無意識怖っ。澪が悪い」
「は?全面的にあんたでしょ」
「うっせ」
「次やったら舌噛み切ってやるから」
「やってみろよ。お前に噛まれてもせいぜい血が滲む程度だろ。痛くも痒くもねえわ」
悠の手が私の手首をつかみ、強引に路地に引きずりこまれる。
人の目に入らないそこで再び重なった唇は乱暴で。
まるで欲望をぶつけられてるみたいだ。
「(っ、やめてよ)」
胸を両手で押してもビクともしない。
力でかなうはずがない。

