2度目はそれからきっちり1週間後の同刻。要するに、先週。
接待終わりにたまたま目に付いたバーに入ったら、カウンター席で女性2人を相手にしている悠がいた。
すぐ私に気づいた悠は、女性たちから離れ隣に移動してきた。
偶然の再会を素直に驚き喜んだ。そして、この眼福な男とまた美味しい酒を飲んで、楽しいひと時を過ごせるという期待。
さっきまで悠といた女性たちの、あからさまな敵意は気付かないふりをした。
この時だけじゃない。悠と過ごしている時、何人の女性が悠に声をかけたか。その中の何人に牽制され、嫉妬の目を向けられたか。
悠と過ごす時間は至福で、1週間がんばって働いたご褒美とすら感じた。
素の自分で居られて、気を抜けて、ストレスを忘れられた。
このまま、口説いて欲しくなかった。
口説かれるくらいなら、3度目の偶然なんてなければよかった。
この男とは、色恋抜きで付き合うに限る。
この歳になって、恋愛に振り回されたくない。それに若い時ほどのパワーを注げない。
ただ、もう5歳若かったら、秒で堕ちたかもしれない。
自分は身持ちの硬い方だと思う。ナンパしてきた男は恋愛対象じゃないし、一夜の過ちもない。
割り切った関係だった人なんて、今まで一人もいない。
だからもう、今日これが最後だ。悠に会うのは。
さすがに4度目の偶然は有り得ない。
「突然男出してくるのやめてよ。今までそんな素振りないのが良かったのに。そろそろ連れが戻ってくるから、この茶番やめてくれない?」
「配慮してやっただろ。連れが席外すまで声かけるの待っててやった」
「ドヤらないでよ。声掛けない選択肢はなかったの?」
「ない。なあ、デートだから気合い入れてんの?髪の毛下ろして巻いて、綺麗にしてんなよ」
なんだろう。言葉の端々に棘を感じるのは気のせい?
私が髪を下ろして仕事をしたのがそんなに気に入らない?嫉妬なんてするはずないし、訳わかんない。
「ねえ、なんなのほんと」
「あの男、何者?」
今まで聞いたことのない低い声に驚く私に、再び悠の指先が伸びる。
ちょうど大きくカールしている毛先を一掴みして、私の目をじっと見つめたまま、そこに口付けた。

