〇 ダンスパーティー・ホール中央 〜「勝負の形」〜
ゆったりとしたワルツの旋律が流れ、ホールの中央で紗菜と翼がステップを踏んでいる。
翼の手が紗菜の腰に添えられ、紗菜の手は彼の肩に。
二人の距離は予想よりもずっと近く、互いの鼓動が伝わりそうなほどだった。
紗菜(少し目をそらしながら)「……意外とちゃんと踊れるのね」
翼(余裕の笑みを浮かべて)「そりゃあな。こう見えて、基本は押さえてるんで」
翼のリードは想像以上にスムーズで、紗菜は自然と流れに乗っていく。
ぎこちなくなりそうな動きも、彼の手が優しく導いてくれる。その心地よさに、紗菜は少しだけ警戒心を解く。
紗菜(ふっと息をつきながら)「……ねえ、そろそろ聞いてもいい?」
翼(眉を上げて)「ん? 何を?」
紗菜(まっすぐ翼を見つめながら)「どうして私を惚れさせようなんて言い出したの?」
その瞬間、翼の手が一瞬だけ止まるが、すぐに持ち直し、踊りの流れは途切れなかった。
けれど、彼の瞳には普段の軽やかさとは違う、どこか真剣な色が宿っていた。
翼(小さく笑いながら)「……そんなの、決まってんじゃん」
翼は少し視線を落とし、ふっと息を吐く。
そして、再び紗菜の瞳をしっかりと捉える。
翼「ずっと、お前が気になってたから」
紗菜(目を見開いて)「……え?」
翼(軽く肩をすくめて)「俺とお前って、昔から成績トップ争いしてたろ? でも、お前ってさ……いつも自分を追い詰めるように頑張っててさ」
紗菜はその言葉に、思わず息を呑む。
翼(真剣な表情で)「そんなお前を見てたら、なんか悔しくなったんだよ。俺がどれだけ頑張っても、お前は俺以上に努力して、俺以上に先を行く。負けたくない、でも——」
翼の声が少しだけかすれる。
翼「気づいたら、お前を勝ち負けの枠でしか見られなくなってて……嫌だったんだ」
紗菜の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
翼の目は冗談を言う時の軽さとは全く違う、真剣で、どこか切なさを含んだ瞳だった。
翼(苦笑しながら)「だからさ、勝負の形を変えたんだよ。お前を惚れさせるっていう、俺にしかできない勝負に」
紗菜(驚きと少しの戸惑いを込めて)「……そんな理由で?」
翼(小さく笑いながら)「そんな理由、かどうかは……お前次第だな」
音楽が終盤に差し掛かる。
翼は紗菜の手を引き、くるりと回転させると、最後のポーズを決める。
静寂がホールを包み、次の瞬間、満場の拍手が響き渡る。
翼と紗菜は、見つめ合ったまま、微かに息を整えていた。
けれど、紗菜の胸の中には、まだ収まりきらない何かが残っていた。
心臓の鼓動がまだ早い。
そして、気づく。
自分が今、翼の気持ちをどう受け止めればいいのか、まだ整理がついていないことに。
それでも、彼の瞳にあった真剣さを思い出すと、胸の中に温かいものが広がる。
ゆったりとしたワルツの旋律が流れ、ホールの中央で紗菜と翼がステップを踏んでいる。
翼の手が紗菜の腰に添えられ、紗菜の手は彼の肩に。
二人の距離は予想よりもずっと近く、互いの鼓動が伝わりそうなほどだった。
紗菜(少し目をそらしながら)「……意外とちゃんと踊れるのね」
翼(余裕の笑みを浮かべて)「そりゃあな。こう見えて、基本は押さえてるんで」
翼のリードは想像以上にスムーズで、紗菜は自然と流れに乗っていく。
ぎこちなくなりそうな動きも、彼の手が優しく導いてくれる。その心地よさに、紗菜は少しだけ警戒心を解く。
紗菜(ふっと息をつきながら)「……ねえ、そろそろ聞いてもいい?」
翼(眉を上げて)「ん? 何を?」
紗菜(まっすぐ翼を見つめながら)「どうして私を惚れさせようなんて言い出したの?」
その瞬間、翼の手が一瞬だけ止まるが、すぐに持ち直し、踊りの流れは途切れなかった。
けれど、彼の瞳には普段の軽やかさとは違う、どこか真剣な色が宿っていた。
翼(小さく笑いながら)「……そんなの、決まってんじゃん」
翼は少し視線を落とし、ふっと息を吐く。
そして、再び紗菜の瞳をしっかりと捉える。
翼「ずっと、お前が気になってたから」
紗菜(目を見開いて)「……え?」
翼(軽く肩をすくめて)「俺とお前って、昔から成績トップ争いしてたろ? でも、お前ってさ……いつも自分を追い詰めるように頑張っててさ」
紗菜はその言葉に、思わず息を呑む。
翼(真剣な表情で)「そんなお前を見てたら、なんか悔しくなったんだよ。俺がどれだけ頑張っても、お前は俺以上に努力して、俺以上に先を行く。負けたくない、でも——」
翼の声が少しだけかすれる。
翼「気づいたら、お前を勝ち負けの枠でしか見られなくなってて……嫌だったんだ」
紗菜の胸が、ぎゅっと締め付けられる。
翼の目は冗談を言う時の軽さとは全く違う、真剣で、どこか切なさを含んだ瞳だった。
翼(苦笑しながら)「だからさ、勝負の形を変えたんだよ。お前を惚れさせるっていう、俺にしかできない勝負に」
紗菜(驚きと少しの戸惑いを込めて)「……そんな理由で?」
翼(小さく笑いながら)「そんな理由、かどうかは……お前次第だな」
音楽が終盤に差し掛かる。
翼は紗菜の手を引き、くるりと回転させると、最後のポーズを決める。
静寂がホールを包み、次の瞬間、満場の拍手が響き渡る。
翼と紗菜は、見つめ合ったまま、微かに息を整えていた。
けれど、紗菜の胸の中には、まだ収まりきらない何かが残っていた。
心臓の鼓動がまだ早い。
そして、気づく。
自分が今、翼の気持ちをどう受け止めればいいのか、まだ整理がついていないことに。
それでも、彼の瞳にあった真剣さを思い出すと、胸の中に温かいものが広がる。



