惚れさせゲーム

〇 教室・数学の授業(翌日)
教室はいつもと違う静けさに包まれていた。それもそのはず――今日は、昨日の数学のテストの返却日だった。

生徒たちはそれぞれ、自分の答案が返ってくるのを今か今かと待っている。
中には落ち着きなくソワソワしている者もいれば、机に突っ伏して現実逃避している者もいる。

紗菜は、そんなクラスメイトたちの様子には目もくれず、じっと黒板を見つめていた。
そして、隣には――余裕たっぷりの顔をした翼が座っている。

翼(小声で)「ドキドキするな、紗菜ちゃん?」

紗菜(小声で)「別に」

そっけなく返すが、手に持ったシャーペンをぎゅっと握りしめる。本当は、心臓がバクバクしていた。

紗菜(モノローグ)
「勝ったのか、負けたのか……」
「どっちでもいい、なんて絶対に思えない」

そうこうしているうちに、数学教師が答案用紙の束を手に前に立った。

教師
「じゃあ、昨日のテストを返すぞ。みんな、自分の答案をしっかり見直せよ」

次々と返されていく答案用紙。クラスメイトたちの反応がちらほらと聞こえてくる。

「やばい、半分も取れてない……」
「うそ、90点!? 私天才かも!」
「え、先生、これ合ってますよね? マルくださいよ~!」

そんな声の中、ついに紗菜と翼の答案が返された。

教師
「三峰、桃瀬」

二人は、ほぼ同時に答案を受け取る。そして、恐る恐る自分の点数を見た――

紗菜(モノローグ)
(……え?)

驚きのあまり、思わず隣を見た。すると、翼もまったく同じ表情をしている。

紗菜&翼(同時に)
「……100点?」

答案用紙には、赤ペンでしっかりと100点の文字が書かれていた。

教室内が一瞬静まり返った後、すぐにざわめきが広がる。

「え、100点!? 二人とも?」
「うそ、マジで!? お前ら、頭良すぎだろ!」
「お前ら、天才かよ……」

まるで、クラス全体が一斉に驚いたような声が飛び交う。何人かの生徒が振り返って、信じられないという顔をしている。

紗菜は少し顔を赤らめながらも、そんな周囲の声が耳に入るたびに、余計に焦りを感じた。

紗菜(モノローグ)
「……まさか、こんなに注目されるとは」

翼もその反応に少し驚いた様子だが、すぐに自分の定位置に戻るように顔をほころばせる。

翼(クスッと笑って)「はは、まじか。こんなことある?」

紗菜(悔しそうに)「……つまり、決着がつかなかったってこと?」

翼(ニヤリとしながら)「そういうことだな。まあ、俺の勝ちってことでいい?」

紗菜(ムッとして)「は? なんでそうなるのよ」

翼(肩をすくめながら)「だって、俺が言った通りじゃん? 俺とお前は同レベルだって」

紗菜(ふっと真剣な表情になり)「……次は、絶対に勝つ」

翼(面白そうに笑って)「お、宣戦布告?」

紗菜(じっと翼を睨みながら)「覚えておきなさい」

そう言い放つ紗菜だったが、内心では悔しさと、ほんの少しの安堵が入り混じっていた。
負けなかったことへの安心感。だけど、それと同じくらい「勝てなかった」という悔しさもあった。

翼はそんな紗菜の横顔を見ながら、どこか楽しそうに微笑んでいた。
この勝負は、まだまだ続く――そんな予感がしていた。