惚れさせゲーム

〇 夏祭り会場・入口(夕暮れ)

祭りの喧騒が聞こえる。
浴衣姿の人々が行き交い、提灯の柔らかな光が夜の訪れを告げていた。
出店からは焼きそばやたこ焼きの香ばしい匂いが漂い、子供たちの笑い声が弾ける。

紗菜は人混みをかき分けながら、待ち合わせ場所へと向かった。
すでに約束の時間ギリギリだったが、翼がまだ来ていなかったら文句を言ってやろうと思いながら。

紗菜(モノローグ)
「どうせ軽口叩きながら現れるんだろうけど」

そう思っていると――。

翼「お、来た来た。遅かったじゃん?」

背後から軽い声が聞こえた。
振り向くと、翼が片手をポケットに突っ込みながら立っていた。
普段と違い、黒地に青の模様が入った浴衣を着ていて、意外と似合っている。

紗菜「……あんたの方が遅いでしょ」

翼「いやいや、ちゃんと時間通りだし? てかさ――」

翼がじっと紗菜の浴衣姿を見つめる。
その視線が妙にくすぐったくて、思わず紗菜は目を逸らした。

翼「お前、似合ってんじゃん」

紗菜「は!? 何言って――」

翼「いや、普通に褒めただけだけど?」

軽い口調だったが、翼の目はどこか本気っぽくて、紗菜は思わず言葉に詰まる。

紗菜(モノローグ)
「……なんか、調子狂う」

無理やり気を取り直し、わざとらしく咳払いをしてから、前を向いた。

紗菜「……もういい、とりあえず行くよ」

翼「おっけー、じゃあまずは屋台巡りだな」

そうして、二人は祭りの中へと歩き出した。

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〇 夏祭り会場・屋台通り

焼きそば、チョコバナナ、金魚すくい――。
どこもかしこも人で賑わい、楽しそうな笑い声が響く。

翼「よし、まずはたこ焼きだな」

紗菜「なんで決めつけるのよ」

翼「いや、祭りといえばたこ焼きじゃん? てか、食うだろ?」

翼はすでに屋台の前に並び、店主に「ソースたっぷりで!」と注文していた。
結局、紗菜も流れに乗せられてしまい、翼と半分ずつ分けて食べることに。

熱々のたこ焼きを口に入れると――。

紗菜「あっつ!? んぐっ……!!」

慌てて口を押さえる紗菜。
翼はそんな彼女を見て、肩を震わせながら笑った。

翼「そうだ!そういえばお前、猫舌だったよな~」

紗菜「うるさい……!!」

顔を赤くしながら冷たいラムネを手に取る。
プシュッと栓を押し込んで一気に口に含むと、ようやく落ち着いた。

紗菜(モノローグ)
「……こんなの、普通の罰ゲームデートのはずなのに」

妙に心臓が落ち着かない自分に気づき、そっと翼を横目で見る。
すると、翼もまた紗菜のことをじっと見ていた。

翼「……次、何する?」

その声がやけに優しくて、紗菜は一瞬言葉を失う。

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〇 夏祭り会場・射的屋台

次に訪れたのは射的の屋台だった。
翼は気軽に銃を構え、的を狙う。

翼「余裕だな」

そう言った瞬間――。

パスッ

狙いがずれて、弾はかすりもせずに落ちた。

紗菜「……ぷっ」

思わず笑ってしまった紗菜を見て、翼がムッとする。

翼「おい、笑うなって。じゃあお前もやれよ」

紗菜「いいけど?」

紗菜は銃を構え、真剣な目で的を狙う。
そして――パスッ!

見事に的を撃ち抜いた。

翼「え、マジか」

紗菜「ふふん、意外と得意なのよ」

翼「くそ……! なんか悔しい」

その後も二人で競い合い、最終的には紗菜が圧勝。
翼は悔しそうにしながらも、楽しそうだった。

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〇 夏祭り会場・金魚すくいの屋台
屋台には金魚が泳いでいる透明な水槽が並び、きれいな色をした金魚たちがゆったりと動いている。

翼「金魚すくい、やってみるか?」

紗菜「別にやらなくても……」

翼はすでに金魚すくいの道具を手に取っていた。

翼「やらないなんて、もったいないだろ?」

紗菜は少し渋い顔をしながらも、結局は「じゃあやってみようかな」と答え、道具を手に取った。

紗菜「こうやって、すくうんだよね?」

翼「そうだよ。でも、すくうの難しいんだよな。すぐ破けちゃうし。」

翼が得意気に言うと、紗菜は少し考えてから手を水に入れ、慎重に金魚を狙い始めた。

紗菜「うーん、すくえない……。」

翼「ほら、こうやって素早く――」

翼が見本を見せると、あっという間に金魚を一匹すくい取った。

紗菜「えっ、噓……!」

翼「まぁ、な? 次はお前の番だぞ。」

紗菜は苦笑しながら再挑戦するが、やっぱりうまくいかない。

紗菜「全然うまくいかないじゃん……!」

そう言って顔を赤くした紗菜を、翼は少し笑いながら見守った。

翼「まあ、いいんじゃないか。気にすんな。」

紗菜「……うん」

少し照れくさい気持ちが溢れ、紗菜は黙って金魚すくいの屋台を後にした。

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〇 夏祭り会場・ヨーヨー釣りの屋台
次に二人が向かったのは、ヨーヨー釣りの屋台。色とりどりのヨーヨーが水に浮かんでいて、楽しげな音が響いている。

翼「ヨーヨー釣りやったことあったけ?」

紗菜「ないけど、なんとなく釣れるんじゃない?」

翼は軽く笑いながら、早速釣りを始めた。

翼「こうやって釣るんだよ。まず、針を使って慎重に……」

しかし、翼の手元が少し慌てている様子。

翼「あれ? 意外と難しいな。」

紗菜が横から見ていて、ふっと笑い声を漏らす。

紗菜「まさか、あんたがうまく釣れないなんて。」

翼は少しムッとした表情を浮かべ、もう一度釣り針を水の中に入れる。

翼「うるさいな。俺だって初心者なんだから。」

その後、なんとか一つのヨーヨーを釣り上げた翼が得意げに紗菜に見せる。

翼「ほら、釣ったぞ。」

紗菜「おお、やるじゃん。」

それから、紗菜も挑戦し、少し時間がかかるものの見事にヨーヨーを釣り上げる。

紗菜「やった! できた!」

翼「おお、すごいじゃん。」

二人で釣ったヨーヨーを手に、それぞれ嬉しそうに微笑み合った。

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〇 夏祭り会場・広場(花火前の一息)
ヨーヨー釣りの後、二人は一息つくために広場のベンチに座っていた。
祭りの賑やかな雰囲気が遠くに響き、空気が少しだけ涼しくなったように感じる。

紗菜「今日はなんだか、結構楽しいね。」

翼「だろ? 思ったよりお前が楽しんでるし。」

紗菜は翼を軽く睨んだが、思わず笑みがこぼれる。

紗菜「別に、普通だし。」

そのまま二人でしばらく並んで座り、祭りの喧騒を楽しんでいた。

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〇 夏祭り会場・広場(花火前)

時間が経ち、祭りのクライマックスが近づいてきた。
花火が打ち上がる前の広場には、多くの人が集まっていた。

紗菜と翼も屋台で買ったかき氷を食べながら、並んで座っていた。

翼「なあ、意外と楽しかっただろ?」

紗菜「……まあ、悪くはなかったかもね」

翼「お、認めたな?」

紗菜「認めてない……!」

翼「ツンデレかよ」

紗菜「違うし!!」

そんな他愛のない会話をしているうちに、祭りのフィナーレを告げるアナウンスが流れた。
次の瞬間――。

ドーン!!

夜空に大輪の花が咲く。
紗菜は思わず、その美しさに見とれていた。

翼「……来年も、一緒に来る?」

紗菜「……は?」

横を見ると、翼がいつになく真剣な表情で紗菜を見つめていた。

翼「来年の夏祭りも、お前と一緒に来たいって言ってんの」

紗菜「……罰ゲームじゃなくて?」

翼「違うよ」

翼の目が、冗談じゃないと告げている。
その言葉に、紗菜の胸がトクンと鳴った。

夜空には、大輪の花火が次々と打ち上がっていた――。