惚れさせゲーム

○学校・図書室(放課後)
静寂に包まれた図書室。
紗菜は黙々と問題を解き続ける。

ノートのページはすでに何枚も埋まっていた。

紗菜(モノローグ)
「……あともう少しで終わる。今日はあと三問」

鉛筆を持つ手に少し力が入る。眉間にしわを寄せながら、じっと問題を見つめる。

しかし、ふと視界の端に動く影を感じて、手が止まる。

そちらを見ると、図書室の入り口付近に誰かが立っていた。

???「おー、やっぱりいた」

紗菜の目の前の席に、気楽そうに腰を下ろす少年。

金色に近い明るい茶髪、整った顔立ち――そして、いたずらっぽい笑み。

桃瀬翼「今日も頑張ってるな、三峰」

紗菜「……なんでここに?」

翼は机に肘をつき、にやりと笑う。

翼「いや、そろそろ帰ろうと思ってさ。ついでに様子見に来た」

紗菜「……私の?」

翼「お前以外に誰がいるんだよ」

そう言って、翼は机の上に置かれた紗菜のノートをちらりと覗き込む。

翼「お、また難しそうなの解いてるな」

ペンを持ったままの紗菜は、小さくため息をついた。

紗菜「だから何。邪魔しないで」

翼「冷てぇなぁ。俺、ちょっとは応援しようと思ってんのに」

紗菜「応援しなくていい」

翼「あっそ。でもさ、そんなにムキになって勉強して、何が楽しいわけ?」

その言葉に、紗菜の手が止まる。

紗菜(モノローグ)
「楽しいか、って……」

視線を落とし、ノートの端に書き込まれたメモを見る。

紗菜(モノローグ)
「私は……ただ、負けたくないだけなのに」

翼はそんな紗菜の沈黙を気にも留めず、机に突っ伏した。

翼「ま、頑張れよ。お前が努力家なのは知ってるし」

紗菜「……」

翼「でも、そんなに根詰めてると、いつか爆発するぞ」

からかうような口調。
でも、その声はどこか優しくて――

紗菜はペンを握りしめたまま、小さく息を吐いた。

紗菜(モノローグ)
「……負けたくないのに」

(こいつが、私のことをそんな風に言うのが、ちょっとだけ悔しい)

図書室の静寂の中、二人だけの時間がゆっくりと流れていた――