惚れさせゲーム

〇 三峰家・紗菜の部屋(夕方)

夏祭り当日の夕方、紗菜は鏡の前に立ち、浴衣の帯をきゅっと締め直していた。

紗菜(モノローグ)
「……なんでこんなことになってるの?」

浴衣は淡い紫色に小さな桜の模様が散りばめられており、母に選んでもらったものだった。
まさか自分がこんな風に浴衣を着る日が来るなんて、思ってもみなかった。

紗菜「はあ……」

大きくため息をつきながら、髪を軽くまとめる。
完全に気乗りしないが、翼にあれこれ言われるのも面倒で、仕方なく準備を進めていた。

そんなとき――スマホが震え、画面を見ると親友の「松島桃羽」からメッセージが届いていた。

《桃羽》「今からお祭り行くよ~! てか、紗菜ほんとに桃瀬と行くの!?(笑)」

即座に返信する。

《紗菜》「罰ゲームだから仕方なく」

《桃羽》「罰ゲームで夏祭りデートって、普通に羨ましいんだけど!?!」

紗菜は思わずスマホを握る手に力を込めた。

《紗菜》「は? 何言ってんの?」

《桃羽》「だって、浴衣でしょ? 屋台巡って、最後に花火とか見ちゃったりするんでしょ? それ、完全にリア充じゃん!!」

紗菜はスマホの画面を睨みつけた。

《紗菜》「ないないない!! ありえないから!!」

すぐに既読がつき、桃羽からスタンプが飛んできた。

《桃羽》「( ̄▽ ̄)ニヤリ」

紗菜(モノローグ)
「……なんかムカつく」

とはいえ、もう出発の時間が迫っていた。
バッグに財布とスマホを入れ、下駄の鼻緒をぎゅっとつま先で調整する。

鏡に映る自分の姿を見つめた。普段と少し違う、大人びた自分がそこにいる。*

紗菜(モノローグ)
「……変じゃないよね?」

そう自分に言い聞かせ、深呼吸をしてから決意を固める。
翼の前で少しでも弱みを見せたら、絶対にからかわれるから。

紗菜「よし、行くか……」

意を決して部屋を出ると、外の祭りの喧騒へと足を踏み出した――。